モモイロセカイ

モモはどんな名前を貰えるのだろうとワクワクした目で夕日を振り返って見つめている。
夕日はモモの視線を机に置いていた紙に誘導すると、書き込んであった名前を指で上からなぞった。

「これはアマノって読む。天野百、だ」

「あまのもも…
モモは、天野のモモってこと?」
「そう。俺は、飛鳥(あすか)夕日」

「あすかゆうひ…」

夕日は適当に出してきた裏紙に飛鳥夕日と漢字を書く。
モモはしっかりとその字を見つめる。
飛ぶ鳥であすかなんて読むのか。どこからどこがあす、でどこからどこがかなのだろうかとぼんやり考えてみる。

「天野は華がモモにやった名前だぞ?華に感謝しろよ?」

「え!モモにくれたらそしたら華は何になっちゃうの?!」

「大丈夫。
苗字はあげても無くならないよ」

モモは華に喜色満面でありがとうと伝えるも、華はずっと上の空だった。

この会話が、モモが苗字というものを知らないこと前提に進んでいるような気がしてならない。
いや、もはやこれは実際に知らないのだろう。
モモは確実に普通に育てられてはいないのだろうとは考えてきたが、それでもここまで知らないとなると明らかに異常だ。

「あ、家族の名前ってことは、モモと華って家族になったってこと?」
「え」

モモの期待するようなキラキラとした目に覗き込まれて、華は声を詰まらせた。

苗字とは確かにそのような意味を持つものだが、なんだか違う。その辺にいる全ての山田がみんな家族というわけでは無いように、苗字が同じだからといって家族であるとは限らないのだ。