モモイロセカイ

ふと、モモの苗字のことなのに本人はいない状況で話しているのはいいのだろうかと、華が思った時だった。

夕日がモモを呼ぶ。

モモは、眠りかけていた朝日に行ってこいと許可を出され、夕日の元に走ってきた。

モモが走ってくると、夕日は自然と座っていた椅子を引き、モモがそこに座りやすいように隙間を空け足を開く。
すっぽりとモモが夕日の股の間に収まると、夕日はモモが落ちないようにとお腹に腕を回す。

いつもの光景だが、華にとっては自分とモモの扱いの差を分かりやすく見せつけられたようで、その光景がいつも以上のショックを与えてくる。

「どうしたのー?」
「モモに新しい名前をあげようと思って」

モモは新しい名前とはどういうことかと首を傾げている。

「モモ、モモがいい…」

自分の名前がモモでは無くなると思ったのか、モモは悲しそうに眉尻を下げて夕日を見上げた。
これは明らかに夕日の言い方が悪い。

夕日はごめんと謝罪の意味を込めて、苦笑いでモモの頭を撫でた。

「モモはそのままだから安心して。
名前の他にも、家族の名前(ファミリーネーム)ってものがあってね…」

眉を下げて困った顔で聞いているモモに、次第に夕日も説明をしながら首を傾げていく。

困った顔で見つめあっているモモ達を見かねたように、直人は頭を抑えて間に割り込んだ。

「あー要するに、だ。
モモって名前の人は世の中に何人も居るんだよ。だから俺がモモを呼んだら何人も振り返ってくるってわけ」

「何人も?!」
「そう、何人もだ」

病院にいた頃には同じ番号を付けられた人がいたことは無かった。
でもそうか、こんなに広いところなら同じ名前の人が居ないと文字が飽和してしまうかもしれない。

「そしたら不便だろ?
だからどこどこのモモ、みたいな感じの名前を付けんだよ」

「おー!それが家族の名前?」
「そういう事だ」

やはり直人は例えと説明が上手い。