モモイロセカイ

「天野(あまの)、百(もも)になるのか」

夕日はチラリと華を見つめる。

華の苗字を使わせて貰おうかとも考えたが、モモをあまり好いている様子を見せない華が同じ苗字をモモに使わせるのは嫌がるのではないかと考えていたため夕日はそれを諦めたのだ。
まさか自分から提案してくれるとは。

白がよく似合う混じりっ気のない清らかな雰囲気を放つモモとは雰囲気から何もかもが違うが、モモは華のことを好いておりよく話しかけているところを見る。

天野百と小さく繰り返す夕日に、華は驚い多様に目をぱちくりとさせて夕日を見た。

「…夕日様、あたしの名前覚えてたんですね」

「…は？」

思わずと言った風に呟かれた華の言葉に直人が笑う。
やっぱりお前モモにしか興味ねぇって思われてるんだって、と直人が笑いながら夕日の肩を叩くと、夕日は直人を嫌そうにシッシと手で追い払う動作をした。

華は、自分の存在が夕日の中に少しでもあったことを感じ、ただただ嬉しくなった。
少し低い、透き通ったその声で、華の名前が紡がれる。そんな小さなことで華の気持ちはふわりと舞い上がる。

幸せだ。

「本当に天野を借りてもいいんだな？」
「はい、使ってください」

夕日が書類に天野(あまの)と書き込む。

華は夕日の少し右上がりの癖がついた字で書かれた、天野という名前を食い入るように見つめた。
特に思い入れなどなかったこの名前に少し特別感が出たようで嬉しい。