モモイロセカイ

夕日が華に言わないという判断を取るのであれば言わなくても構わないと思うのだが、こうまでどうでもいいといった反応をされても困る。

「あの、決まらないなら、
…あたしの名前使ってもいいですよ」

華がこういった気遣いをするのは意外だったのだろうか。
夕日は驚いたように少し目を見開き華を見上げる。

「正直に言って、あたしの両親はそんなにいい人ではないんですけど、モモちゃんが嫌でなければ使ってください。それに…」

華は言葉の途中で口を噤んだ。

華は決してモモのことが嫌いなわけではなかった。それになんと言っても、以前にレイプされた時に救ってくれた恩もある。

他にもモモは直接的に華を救うようなことはしていないのだが、何も否定せずにただ話を聞いてくれる姿勢や握ってくれていた手の温かさに確かに華は救われていた。

チラリと華が今も勉強しているモモに目を向けると、半分眠りかけている朝日の横で一生懸命確立の範囲を勉強しているようで個数を数えている様子が目に入る。

どこでどのような生活をさせられていたのかはわからないが、華が初めてモモのしている勉強を見た時に、モモは分数の掛け算をしていたのだ。
彼女の親は、子供に小学校にも通わせていなかったのだろうかと愕然したことを覚えている。

モモを、嫌いになれるはずがないのだ。

「それに?」
「…すみません、気にしないでください」

怪訝な顔をする夕日に、華は曖昧に笑顔を浮かべ、笑った。