モモイロセカイ

相も変わらず夕日の股の間に座り込むモモと、姫になってから僅かな間にはもう新調されていた自身のものになったソファーを見、華はなにか考え込む様子を見せている。
そこで華は設置されている自分のソファーになったものに手を触れながら、そういえばとモモを振り向いた。

「…そういえば、モモちゃんは自分のソファーは買わないんですか?」

「そうだな。
俺としては別にこのままでもいいんだけど、モモは自分のソファー、欲しい?」

ソファーを買って貰ったら、モモはもう一人で座らないといけなくなるのだろうか。夕日がもうモモを後ろから抱え込んでくれることは無いのだろうか。
夕日の温もりに慣れてしまったモモはそう考えるとなんだか、浸かっていたぬるま湯のなかに冷水を入れ込まれたかのような変な心地になってしまう。

露骨に不安の表情を浮かべていたのだろうか。

夕日はモモの表情を背後から覗き込むと、そのまま、あーと声を出し口元を隠すように片手で顔の下半分を覆ってしまう。

なんだか鼻の奥がジーンと痛くなった。
直人の手伝いをする時に玉ねぎを切ったのだが、その時の感覚によく似ている。

じわりと視界が霞み、そして瞬きと同時に一気に視界が明瞭になった。

夕日がモモの涙を指の腹で拭う。

どうして今涙が出るのだろうと体内に意識を向けると、副交感神経がよく働いているのが伝わってくる。
ならばモモが今感じている胸の感覚は、きっと()()()と呼べるものだ。

そのまま声を出すと震えそうになるので、副交感神経の働きをあらかじめ緩めておいた。

「モモ?」

「夕日はもう、モモを膝の上に乗せるの嫌になった?
モモが重いなら皮下脂肪落とすから、……言って」

モモは腰だけを捻り、夕日に目を合わせると眉を下げて訴えかける。

「ぁー……ごめん、心配させたな。
…モモは嫌じゃない?」
「嫌じゃない!」

嫌なわけが無い、とモモは食い気味に言った。
優しく髪の毛を毛並みに沿って撫でられる。モモは夕日の暖かい手を、目を瞑ることで受け入れた。

「そんなに、泣いちゃうほどに俺と一緒に座りたかったの?可愛い」

「ん、夕日の傍はぽかぽかするから」

安心して夕日に体を預けたモモを、上から夕日がそっと抱きしめる。

苦々しい表情でモモと朝日に目を向けていた華だが、目を逸らすと気を取り直したようで、一人ゲームをしている直人に向かって話しかけることにしたようだ。

「朝日様とモモちゃん何とかなりませんか?なんて言うか…見ている方が辛いです」

「お前も懲りねぇな…。
毎日見せられてんだろ、諦めろ」

ほらよと直人がもう一台のゲーム機を華に渡す。

華も仕方ないなとばかりにそのままゲームに参戦した。