その瞬間だった。

バキッという音がして男がふわりと蹴り飛ばされた。その衝撃は、まだ男と繋がったままだった華にも来て、支えを失った華はズルズルと地面に座り込んだ。

男はもう一度蹴られたらしく、次は路地裏の壁に強く背中を打ち付けていた。

「…お前、二度とこんなことすんじゃねぇぞ」

ツヤのある引く声に、華はハッとして顔を上げる。

その人は、夕日で赤く染まって輝いているように見えた。
激しく動いたせいで、帽子が後ろに置いていかれ、黒く艶やかな髪がふわりと風に舞う。ちらりと覗いた涼やかな目は、長めのまつ毛に覆われているようで遠目に見ても色気がある。

まるで神が創り上げた芸術作品のようなのような風貌に、華は思わずしばらくの間見惚れていた。

華をレイプした男は逃げたようで、その人を見上げていた華はバチリと目が合う。

ドキリと心臓が激しく音を立てたような気がする。

華は男を見上げながら、こちらへ近づいてくるのを息を止めて待っていた。だが男は華の様子にチラリとだけ目を留めると、直ぐに来た方向へと引き返してしまった。

残された華は少しだけ唖然とする。

まだ礼も言っていないのにと華は男を追いかけるため、ボロボロだがせめて見せられる格好はしておこうと下着に手を伸ばす。

そんな時だった。
男が、色素の薄い、いかにも可愛らしいと表現するのが正しい女を連れてきたのは。


華の王子様は、いつだって華だけの王子様にはなってくれない。

――