やはり娘に似ている。

第二の娘のような存在を閉じ込めている存在から、唐突に、少女を逃がしてやりたくなった。

「水族館に行きたいなら、まずはここから出ないとな」

「出る?どこか行くの?」
「そうだな……遠い所かな」

2603番が少女の頭を撫でると、初めはくすぐったそうにしていたが、次第にされるがままになっていく。

「残念ながら俺の知り合いはほとんどいないけれど、外まで出たら誰かに声を掛けるんだ」

少女はというとあまりよく分かっていない表情だ。
とりあえずと、2603番はポケットの財布から万札を2枚抜き取り少女に手渡した。

「?なにこれ?」

金の意味もわかっていない様子に、今までこの病院は少女を無賃で働かせていたのかと、2603番は反吐が出る思いを抱く。

2603番は仕方なく札を四つ折りにして少女の身につけている白衣のポケットに突っ込んだ。

「何か欲しい物があったら、これと交換してくれと頼めばいい」

「えぇ、この紙と?」

残念ながら俺はついて行くことが出来ないが、僅かでも金を持っていたら、もしかすれば誰かに拾って貰えるかもしれない。

そんな思いで金を渡した。

「誰かに、拾ってって声を掛けるんだ。
できるか?」
「えぇ拾ってくれるかなぁ」

少女を逃がしたと咎められても構わない。
2603番は心からそう思った。

いざとなったら、少女の存在が表に出てしまった時には、訴訟でも何でもしてやろうと覚悟を決める。

その日の夜、少女はいとも簡単に病院を出た。

少しだけインスリンの分泌を促進してやると、人はいとも簡単に気絶するのだ。

2603番は少女に触れた者が次々と倒れて行くのを見て少しの不安を覚えたが、少女が自分から外に出たと見えるように己も床に転がった。

外であまりその力を使わないよう、捕まえられそうになったらすぐに逃げるよう散々言ったのですぐには帰ってくることはまあ無いのではないだろうか。

かの可哀想な少女に少しの間でも外界を楽しんできて欲しい、その一心だった。