モモイロセカイ

うずくまった視界の端に直人が近寄って来るのが見える。
きっと心配されているのだ。

「大丈夫だ…モモ、落ち着け。
…アイツはトイレへ行っただけだ」

直人はトントンと小刻みに過呼吸を起こしかけるモモの背中を叩いた。

トイレ…
じゃあモモは、…捨てられない?

落ち着いてきたモモは吸っていた息をゆっくりと吐き出していく。

「お、良かった。落ち着いたな」

「…モモ、嫌われてない?」

「あぁ、それは絶対に大丈夫だ。俺が保証する。
むしろ俺はお前らが、ここでおっぱじめるんじゃねぇかと思って焦ったぜ…」

嫌われてない。
モモはそれに心底安心した。じわりと指の先に熱が戻っていく。

「俺は今、アイツを心の底から男として尊敬したわ」

モモは過呼吸を起こしかけたことにより体力を削られ、若干意識がふわふわとした状態にあった。更には先程まで夕日が座っていたソファーであるので暖かい。
モモはその温もりに包まれ抗わずに目を閉じる。

つまり、半分眠りかけていたのだ。

「モモは夕日が“好き”なのか?」
「んー、すきー」

「じゃあ俺は?」

直人のことだろうか。
モモはふわふわとした頭で答える。

「直人も好きー」

「じゃあ、俺にキス出来る?」

直人にキス…考えたことが無かった。
イメージをしてみる。先程のドラマみたいに、ちゅっと唇を付ける。

嫌悪感はない。

「…んー多分出来る!」

「それじゃダメなんだよな…」

意識の端で直人が悲しそうに呟いていたような気がする。

でも直人とキスは出来るけど…したいとは思わないかな。

そんな言葉はついには発されずに、モモは沼にはまるように眠りに落ちていた。