モモイロセカイ

少女のいるこの病院は、少女の働きもあって『奇跡の病院』と呼ばれていた。

「相変わらず凄いな……」

「ふっふーん、凄い?凄い?えらーい!」

あっという間に顔色の良くなった患者が運び出され、次の患者が運び込まれてくる。

2603番はサラサラと慣れた様子でカルテを書き込んでいた。

「今日はそんなにヤバい奴が居ないから楽だな」

「ねー!そういえば03番、サメ見たことある?海に居るんだって、青い冷たい海!水族館行ったことある?」
「おーおー、聞いた聞いた。前にも聞いたな。
……サメなぁ……」

いつもなら聞き流すところだ。この可哀想な少女に情でも湧いたのだろうか。

2603番はカルテに書き込む手を止め、思い返すように窓のない部屋をぐるりと見渡す。
資料の中から取り出したのは一冊の薄いアルバムだった。家族3人が楽しそうな様子で写っており、開けたページは一面が青い。

少女は一心にそのページを覗き込んだ。

「……ここ水族館?
なぁに、クラゲ?」

「何年前だったかなぁ…
…これが俺の奥さん、んで、こっちが子供」

「奥さん?」
「そ、俺の大切な人」

少女は興味深そうに2603番の隣に並ぶ女の人を見つめた。

写されたそれはいかにもな家族写真のようで、皆が笑っており幸せそうだ。

2603番は写真に写る女の子と同じぐらいの背丈である少女に目を向けた。

「……外に出たいとは思わないのか?」

「外?わかんない」

まぁ当たり前か。

少女が暮らしてきて来ていたのはずっと窓のない部屋の中でのことである。

少女が気付いているのかは分からないが、あまりに太陽光を浴びないでいるとビタミンDが不足するので、たまに部屋の光が太陽光を再現したものに切り替わっていることがある。

このままだと話が噛み合わないと判断した2603番は質問を変えることにした。

「水族館には行ってみたくないのか?」

「行きたい!」

即答を返した少女に、そうかと2603番は微笑む。