少しだけ熱を持っているようで熱い。指の腹でそっと撫でるように触り、明日にはそこが治っているようにと、少し血管を修復しておいた。

「んふ、おまじない!」

「ふふっ…なんですかそれ」

女はモモの無邪気な笑顔に、ようやく少しだけ笑った。

「…私、今日は近道しようと思って路地裏を通ったんです」

女が話すには、過去に何度かその路地裏を通っており、今日も大丈夫だと思って通ったらしい。もともと人通りが少ないことはわかっていたらしく、襲われてしまった時にはもう半分諦めていたらしい。

「ほんと…馬鹿なことをしたと思います。…少し遠くても、人通りの多い道を行くべきでしたよね」
「気をつけないと」

モモは夕日の言っていたレイプという言葉に聞き覚えがあった。

かなり前だが、精神病棟へ行った時だっただろうか。
モモがその時付いていた医師が、それにしても酷いことをするもんだと漏らしていたのを聞いたのだ。

そうだ、確かあれは患者が暴れて手がつけられなくなった時だった…

悲鳴や物を投げつけ壁に当たる音が響き渡り、たった一人の女性を何人かの力が強そうな男性の医師で押さえつけていた。その時の女性は男性恐怖症を患っており、男性に抑え込まれることによりまた暴れるというフィードバック循環が怒っていたのだと後から女医に説明を受けた。
安定剤を打ち込んで何とか落ち着いたものの大変な現場だったと覚えている。

レイプとは相手の意思に反し、性行為を強要することだ。

「あの人たち怖い?」

「…怖くない、と言えば嘘になりますが…、ほんとは少し、怖いです」

女は困ったように眉を下げモモにギリギリ聞こえるぐらいの声で呟く。
モモはそんな女にそれはそうだと大袈裟に頷いた。

「じゃあ、モモは怖い?」

「えっ?…いえ、怖くないです」

「じゃ、怖くないモモが手繋いでてあげる!」