「のうモモ坊や、ワシは敵にならんぞぇ?」

ひょうきんな顔をしているのだろうと1596番の顔を玲は覗き込むが、意外にも真面目な顔をしていて驚く。

「ほんと?んー…
んー…
ん!信じる!
03番水族館行きたい、聞かれて…03番から…
出ないと水族館行けない?うーん、拾って貰って、水族館連れて行って貰え?」

モモの話にはまとまりがない。頭では話したいことがあるのだが、言葉にするための経験や知識が無いからである。

「ほうほうほう!1903番か!ふむふむ!
あやつはそなたを実の子のように接していたものな!」

「その03番はモモの話によく出てくるが、誰なんだ?」

ゆっくりと紅茶を飲んで話を聞いていた夕日に問われ、モモは嬉しそうに彼に向き直った。

「03番、奥さんと子供いる!水族館の写真、キラキラ!奥さんって大切な人!」

「…03番は、モモの父親ではないの?」

「父親?……うぅん、後輩!」

ピキリと場が固まった。
1596番に至ってはすすっていた紅茶を誤嚥してむせている。

「ゴホッ、ぐほっ…ゴホゴホッ…っ
…っ、モモ坊や。それは…クッ!」

否、ツボに入ったようだ。
むせるように、実際むせているのだろうが、笑っている。

「2603番は10歳の時来たから、後輩!」

「確かに時期的に見ればそうじゃがっ…っ!ふっ、モモ坊の後輩か…クッ…!!」

1596番の笑いは収まりそうにない。

「モモは何歳からそこに居たんだ?」
「ずっと?16年ぐらい?」

「……もしかして、軟禁でもされてました?」

軟禁。
あまりきびしくない程度の監禁。身体の自由は束縛しないが、室内から出さないなど、外部との交渉を禁じ、あるいは制限するもの。

その問いに応えたのはモモじゃなかった。

「そうさなぁ…、あれは立派な軟禁じゃて。
モモ坊は生まれて直ぐに病院に連れてこられたのじゃ」

仕事仲間の医者以外との関わりを絶たれて、仕事中には窓のカーテンを閉め外が見えないようにする。外界という存在を一切遮断しその存在すら知らない状態にする事を、軟禁でないとは言えないだろう。

1596番は話を真剣に聞いている夕日達に向けてそんなことを語った。

「モモ坊や、そこ(・・)は楽しいかえ?」

「うん!」

ならば良いのじゃと珍しくも困ったように笑った1596番はモモの頭を撫でた。