レントゲンやCTの結果から言うと、骨折した腕も打撲した腹も切れた後頭部も、何の問題もないほどに治っていた。

腕に至っては、元から何も無かったというような治り方ではなく、骨折していた痕は地味に残っているというような治り方をしている。

「マジですか…」
「まあ信じられなくて当たり前じゃの。
ワシも直接目の当たりにして結果の前後を見るまでは信じなかったものじゃ」

打ちひしがれている玲の背中を、複雑な表情をしながら1596番はまだまだ若造だのとぽんぽん叩く。

「それで100番や、」
「コイツはモモな?」

「ほう!」

話を続けようとする1596番に夕日が割り込んだ。それを聞いた1596番は小さな目をキュッと見開いた。

「モモ坊か!良い名を貰ったのぅ」
「んふー」

「それでモモ坊よ、そなたをあの牢獄から逃げるように唆したのは誰じゃ?」

そう問う1596番の声には老人には相応しくない程の好奇心があった。
モモたちが話をしている間、直人はよくここに来ているのか勝手に機器を弄り紅茶を沸かしている。

「んー96番すぐ言う、やだ!」

「じじぃ信頼されてねぇのな」

モモたちの目の前にビーカーに入った暖かい紅茶がカシャンと音を立てて置かれる。

「おじいさん…まだコップを買っていなかったんですか?」
「うるさいわい小童。それで十分じゃろうて」

手前はいつまで経っても口うるさいのぉとおじいさんは手でシッシと玲を払う。
玲も慣れた様子でため息をついてビーカーの紅茶を飲んだ。