後ろのドアが開き、男は最初に少女を中に押し込む。

「わぷっ」

バタンとドアが閉められすぐに車は発車した。
車には運転手、助手席に一人、後部座席に一人が既に乗り込んでいた。

助手席の男は男の怪我がそれほど大したことがないことを確認すると、安堵のため息をつく。

「血だらけで倒れている貴方の写真が送られてきた時にはゾッとしましたよ…。とりあえず無事で何よりです、夕日。
まずは何から聞いたらいいんでしょうかね。
……その子は?」

「拾わされた」

「…拾わされ(・・)たんですか?貴方の意思ではないと?」

途端に少女を見る目が厳しくなる。

興味深そうに早く通り過ぎる外の景色を眺めていた少女は、異様な雰囲気に辺りを見渡しキョロキョロと不安げに眉を下げることしか出来ない。

「あーいや、ごめん。
そういうつもりじゃない。俺が拾った」

「ん、拾ってくれた!あ!」

話す機会自体が少なかった少女は語彙力や文法がよく分かっていないようで、文章を組み立てるのがあまり上手くない。

ハッとした顔で少女はポケットを探り、ポケットから掴んだものを一枚、助手席の男に向かって差し出そうとする。

「おー待て。出さないで、それをしまって」

だが男によってそれは阻まれた。
片手を簡単に抑えられたまま、少女は首を傾げる。

「違う?」
「うん、違うな。しかも万札じゃねぇか…」

「…もしかしてですが、今、私にお金を渡そうとしました?」

信じられないとばかりに助手席から後ろを振り返ってきて覗かれる。

そうは言っても、今の少女の持ち物で、渡せる価値のあるものはこの二枚の紙ぐらいしかない。その価値はよく分かってはいないが、03番が渡してきたのだからきっと価値のないものでは無いのだろうと思う。

「なるほど…。貴方の意思に背いて拾わされた訳じゃないんですね?」
「そういうこと」
「ならば構いません」

助手席の男は頭が痛そうに眉間を抑えながら、掛けていた銀色の細ぶち眼鏡を外した。

「貴方の怪我を撮られた写真ですが…、あれはどう見ても編集には見えませんでした」
「事実だからね」

「そうですか…。それでは、何故怪我が治っているのか聞きたいのですが、
もう着きますね。
二階でまた聞かせてください」

「わかった」

キュッと車が音を立てて止まる。
少女は男によって腕を掴まれて、引かれるように外に出た。