モモイロセカイ

ずっと歩いていたが男はふと目印の看板を見つけると立ち止まる。
すると、コンビニの前で立ち止まっていた女を呼び止め催促するように片手を上に向けた。

「携帯貸して」

「ちょ、えっ、ひゃあッ!!え、夕日様っ!?」

女は男のことを知っているようで、キャーキャーと騒いでいる。

男は、借りたジャラジャラとしたキーホルダーの着いたスマホを操作し、自身の仲間の電話電話番号に発信した。

「なにそれー!」
「…スマホ」

「スマホ!小さい、電話!」

少女はキラキラした目でスマホを耳に当てる男の様子を見つめていた。

少女が居た病院では、誰もスマホを少女の目に触れる所へ出していなかった。
医者たちは普段、対面やメールでのみやり取りをし、速急な対応が必要な案件は置き電、もしくは館内放送で対処する。それが暗黙の了解となっていた。

「は?何このチビッ……!」

少女に噛み付こうとした女は、男にジロリと牽制するような視線を向けられ口を閉じた。

幸いなことに少女はその言葉が向けられたものだと言うことにも気がついていなかった。

「……あぁ俺、夕日。……なんとかね……今――地区のコンビニ――前にいるから迎えお願い」

通話を瞬時に切り、通話の履歴を消す。
そのまま女にスマホを返すと待ってましたとばかりに女は男に擦り寄った。

「夕日様ぁ…今夜、アタシに夢を見せてくれませんかぁ?」

「気分じゃない」

少女は何をしているんだろうと首を傾げながら遠回しに誘われている男を眺めている。

男が何をしていたって少女には関係ない。
今まで対面した医師ともそんなスタンスで接してきていたし、それは2603番に対しても例外ではない。

「チッ…!アンタのせいよっ!」
「ぅ?」

女は目を吊り上げた酷い形相で少女を指差すと、ドタドタと足音を響かせてその場を去ってしまった。

「うーん?怒った?」

「気にしないで」
「?」

男の呼んだ車はすぐに来た。