モモイロセカイ

少女は男の少し曲がっている、骨折した腕を見てどうしようかと考え込んだ。

「痛いねぇ、繋げたらダメ…
…曲がるよ。
伸ばしたら痛い?」

「……ぁ?」

骨を伸ばさずに繋ぐことは出来るが、その結果腕の骨が曲がってしまうのだ。かと言って伸ばして真っ直ぐにするのにもかなりの激痛が伴う。

少女の口から思考が、言葉がこぼれ落ちた。
男はもう息も絶え絶えだ。

いつもはどうしていただろうかと振り返り、考える。

麻酔をしていたかもしれない。この場に麻酔などあるはずもなく、どうすればいいかわからない。
アルコールでさえかなり痛がっているのにもっと痛みを与えるのは酷じゃないだろうか。

そうした思考の過程を経て、少女は男の腕を思い切りグッと伸ばした。

「……ぅア゛ァッ!!」

今までなんとか声を出さずに我慢していた男が、声を出して痛がる。
少女には経験した事の無い痛みだが、きっとそれは凄く痛いのだろうと思う。

ムニムニ。

少女は骨の形を再現するように男の腕を押していく。

時間が経つにつれ、不思議なことにじわじわと痛みが収まっていく。あれだけガンガンと響いていた痛みが影ぐらいしか残っていないのだ。
男は疲れと貧血もあってしばらく放心してしまう。

「ん!もう動くよー」

男は、未だに自身の体を跨いでいる少女の腰を支え、落とさぬようゆっくりと起き上がった。
あれだけ痛みを感じ、起き上がれなかったのが本当に嘘のようだ。

散々蹴られたはずの腹も、折られた腕も、殴られて切れた頭も、すべてが元からこれぐらいの軽傷だったとばかりに治っている。