敵に会うたびに、その場で手早く倒して部屋にぶち込むこと三回。やっと目的と思われる部屋に到着した。なんでわかるかって?部屋から大きないびきが聞こえるからです・・・!場所が場所だけどちょっと笑っちゃいそう・・・!

(えっと、とりあえず面の為に睡眠薬を飲ませるんだったよね)

わたしが心臓の隠しポケットから取り出したのは親指の爪ほどの大きさの丸い錠剤を取り出す。

(いや、まさか、涼ちゃんが言ってた[普通の荷物以外]のものがお薬だったとは・・・)

出発の時涼ちゃんにもらった小さな袋には傷薬を初め、睡眠薬、解毒薬、さらにはマチンという薬を使った『犬殺し』や(これを犬が摂取すると全身が痙攣して呼吸困難になるマジの毒薬)、大麻を使った薬で相手の戦闘意欲をなくす『阿呆薬』。さらには『烏頭』の軟膏まで入ってあった。

あ、『烏頭』っていうのは今でいう『トリカブト』のこと。これを塗り込んだ刀とかで少しでも掠ったりしたら呼吸困難や心肺停止を引き起こす、マジでやばい毒。

ちなみに新はこれを見た途端[涼、よくやった!]と言って嬉々として自分の手裏剣とか苦無に塗り込んでた。わたしは塗ってないよ!こんな死ぬような毒使うわけないじゃん!

大分話がずれてしまった。とにかく、この薬は涼ちゃん曰く[一錠飲むだけで三十分は死んだように眠れる優れもの。水かお酒に溶かして使いましょう。即効性を保証します]だそうです。

何死んだように眠れるって。今まで十五年生きてきたけどそんな薬聞いたことないよ。

(でも、効き目抜群なんだろうな・・・新のお墨付きだし)

そっとふすまを開けて中を覗く。奥の部屋に人の気配。ここの家の主だろう。

(えっと、とりあえず液体に溶かせば大丈夫だよね。ってか、普通この人の妻とか子供とかも一緒に寝てるはずなんだけど、どこいるんだろ?・・・あ、これでいいか)

枕元にあった銚子(日本酒を入れる注ぎ口があるやつ)にポチャン、と睡眠薬を溶かす。

そのまま注ぎ口をそっと彼の口に注ぐ。トク、トクと注がれるそれに彼は一瞬唸ったけどすぐになくなって素直に口に運ばれる液体を飲む。全て飲み終わったのを確認してそっと口から銚子を取り出す。

ちょっと置く時に音が出たけど家老は起きていない。どうやら効果は本物みたい。

(よ、じゃあちょっくら探しますか・・・)

まずは本人がいた寝室。目についた棚を片っ端から開けてみるけどそれらしいものはない。

次は隣の奥屋敷と呼ばれるここで寝ている人たちが起きる部屋。襖をそっと開けて目を凝らして見てみるけど特にない。

(ってことは・・・)

残るここにつながっている部屋は納戸、つまり布団の収納部屋。最初の部屋経由で入ったのはらさっきよりも二回りほど小さい部屋。

(お布団を入れる部屋だからかな?特に何もない、な・・・・あれ?)

見間違いかと思ってさっきよりも襖を開けてよく見てみる。

(ううん、見間違いじゃ、ない)

壁にあったのは小さな切り込み。それも綺麗に観音開きになるようになっている。はやる気持ちを必死に抑えながら苦無を切り込みに入れててこの原理を使って開ける。

(・・・!ビンゴ!)

中に入っていたのは二、三十枚ほどの紙の束。手早く中を確認すると予め新に聞かされていた二本松藩の家老の名がしっかり宛先に書かれていた。差出人の名は三春藩家老の名。

(っ、これだ!証拠、ゲット!)