「・・・新。あなた、なんで先に無理だって諦めてるの?」

「え?だって、俺、ほんとに・・・」

「だから、わたしはそう思わないってこと。少なくても、今までこの旅の途中で一緒に暗号を解いてたけど、新がいうほどめちゃくちゃ暗号がムリ、ってことじゃないと思うの。だって、わたしが説明したら結構早く理解できてるし。新が解読できないのは新が[自分にはできない]って先に諦めてるからだと思うの!分かった⁉︎」

ここまで一気に言い切って少し息切れた体を落ち着かせるためにハァハァと呼吸をして息を整える。

いつの間にか熱が入って立ち上がってたみたい。ストン、とそのばに腰をおろす。その間も新は呆然としてわたしの言葉を噛み締めていた。

「・・・先に諦めてた、か・・・」

そう新が呟いたのはわたしの息が普通に戻って、しばらくした時だった。

「・・・俺、やるよ」

「!それって・・・!」

「あぁ、この作戦で行こう。あ、千夜、出来るだけ簡単な暗号で頼む」

「分かった。解読方法は・・・」

「言わなくていい。俺が、自力で解く・・・難しすぎるのは、やめろよ」

「・・・了解」

「決行日は明日の夜。二十八日だ。千夜はその日の夕餉を体調不良で出席するな。そこら辺の言い訳は俺がなんとかする。千夜に一人つける。そいつに手紙を預けてくれ。出来るだけ早くしてくれると助かる。さっき言ったように、詳しい決行時刻や侵入方法は千夜が決めてくれ」

「分かった・・・あ、正確な時間で決行したいから、当日はこれ渡すよ」

わたしは荷物の漁ってそこの方に眠っていた時計を取り出す。わたしと新があの小さな部屋で最初に盛り上がった思い出の品だ。

「これ、時計だったよな?時間が正確にわかるからくり・・・だったよな?」

「うん。あの時も話したけど、この短い針と長い針で正確な時間がわかるの。わたしにとってこれが一番わかりやすいし、新も仕組みがわかれば便利でしょ?」

「そうだな。でも、俺がこれ使ったら千夜が時間わからねぇんじゃ・・・」

「大丈夫。わたしにはこれがあるから」

また荷物を漁って出したのはスマホ。

「これにも時間がわかる機能がついてるの。その決行する時間だけつけっぱにしておいても多分充電大丈夫だし・・・前の失敗を活かして、先に連歌の句は書き出しておいたから充電が切れて使えなくなっても大丈夫」

「そうか・・・なら、今俺に詳しい時計の使い方、教えてくれ」

「ん。まずわたしの時代の時間の概念なんだけど・・・」

そんな感じで急遽始まった現代の時間講座は新の覚えの早さに舌を巻きながら予定よりも早く進んで新は一時間で現代の時間の感覚をマスターした。(いや、なんでこんな頭いいのに暗号は解けないの⁉︎)

「じゃあ最後。これは時計の針でどう表される?」

「えっと・・・六時半だから・・・短い針が六と七の間のこの辺りで長い針はここ!六のところ!」

「正解!完璧!」

「これで任務も捗るな」

「ふふ、そうだね。あ、もうそろそろ日の出の時刻じゃない?」

「そうだな。今日は芹沢の滝に行ったら後は特に予定はないからしっかり休んで体力を回復させろ。忍器の確認もしておけ」

「分かった・・・この作戦、絶対、成功させよう」

「あぁ、もちろんだ」

二人はニッ、と笑った後、頷き合った。