「さて・・・本題に戻してもいいか?其方は何者だ?」

急に冷たくなった雰囲気。うわぁ、流石将軍。そこらへんの使い方はお手ものですか。

「えっと、まず、わたしは松本流忍術の十八代目風雅の千夜と申します。以後、お見知り置きを」

わたしが綱吉さんに向かって頭を下げるとようやく咽せ終わったらしい相手が目を見開く。

「嘘だ!風雅といえば松本流の頭領が代々受け継ぐ名のはずだ!それに、今の松本流の当主はまだ六代目のはず!何故・・・」

「何故って言っても・・・わたしも分かりませんよ。わたしの家の書庫で伊賀者の一覧の本読んでたらタイムスリップしてきたみたいですし」

「たいむすりっぷ・・・聞いたことないが、それは?」

「えっと、簡単に言うと、未来に行ったり、過去に行ってしまうような現象です。わたしは今、この時代から大体三百、三十、四十年ほど前の未来から来ました」

「「はぁ⁉︎」」

おぉ、綺麗にシンクロした!聞いてる側からしたらすっごく気持ちいい!

「証拠が欲しいのなら、あなたたちのことを少し話しましょうか?まず、そちらの江戸川幕府五代将軍の徳川綱吉さんは徳川家光の四男として正保三年の一月八日に生まれます。名は徳松で・・・」

「な、なぜ私が綱吉だと・・・?」

「歴史の授業で習ったんですよ。今の時代の将軍は犬公方の徳川綱吉だと。そして、そこにいる忍者と話していた、あれ。このあれは、松尾芭蕉のことですよね?」

「・・・正解、だ」

唸るように綱吉さんが言う。

「これで、信じてくれましたか?あ、後わたしがここに来たのはたまたまです。日光行こうとしたらこの人が通りがかって」

そう言って隣にいる忍者を指差す。

「歩き方が独特だったのですぐに気づいて、面白そうだったからついて行ったんです」

「え、気付かれてたの、か?」

「そりゃあ、あんな見え見えな『常の足』だったら分かりますよ。それに、江戸城に入る木のうろ。草を結んでるんですぐ分かりますよ。あれ、今度使うときに解いたほうがいいですって。そうしないとわたしみたいに侵入してくる人現れますよ」

「す、すまん・・・」

あれ?なんでわたし、この人に謝罪されてるの?話を戻そう。そうしよう。

「で、綱吉さんは、わたしにどんな罪を着せますか?」

綱吉さんは難しい顔で顎に手を当てて考え込む。一瞬、眉間によっていたシワが取れて、すぐ復活して、結局顔を上げた時にはさっきの難しい顔の面影はどこにもなくて、逆にめちゃくちゃ面白そうなことを見つけたような、子供のような顔をしていた。

なんか嫌な予感・・・

「千夜は、罰しない。まぁ、でもその代わりに・・・」

「代わりに?」

「君たち二人で、奥州に行ってくれ」