○珠子のクラス(ホームルーム前)

チャイムが鳴る中、咲仁が教室に入ってくる。
クラスの女の子がきゃあきゃあ言いながら「おはよう」「遅かったね」などと声をかけているが、無視している。

珠子「ギリギリセーフだったね」

珠子が声をかけても、眉間にシワを寄せて機嫌が悪そうな咲仁。

咲仁「寝る」

ドカッと机にカバンを置き、乱暴に腰掛けると、そのまま机に突っ伏してしまう。

どうしたんだろうと幸夜を見る珠子。
わかんないといった仕草で、両手を広げる幸夜。
咲仁は咳をしている。

○珠子のクラス(昼休み)

机をくっつけ島にして座っている珠子と双子。

幸夜「これ、珠子ちゃんの分ね!」

珠子の机に置かれるお弁当箱。
珠子が包みを広げてフタを開けると、クマの形をしたおにぎり・ハートになるよう半分に切って組み合わせられた卵焼き・ハートのピックが刺さったミートボール・ブロッコリー・ミニトマトが詰められている。

珠子「お弁当まで作ってくれたの!?」

幸夜「昨日は売店に行ってたでしょ? 料理男子ってモテるらしいじゃん。アピールアピール」

咲仁「俺の分までご苦労なことで」

咲仁も弁当のフタを開けると、クマとハートのまったく同じ弁当だった。

咲仁「なんで俺のまで‥‥」

幸夜「練習台〜」

げっそりしながらマスクを外す咲仁。

素顔の咲仁にドキッとする珠子。

珠子(やっぱこう見ると、イケメンの双子って迫力だなぁ)

絵になる幸夜と咲仁のツーショット。

珠子の視線に気づいた幸夜がにっこりと笑う。
赤くなり慌てて目を逸らす珠子。

幸夜「じゃあ、食べようか」

三人でいただきますと手を合わせる。

珠子「美味しい!」

見た目だけではない幸夜のお弁当に満面の笑顔になる珠子。
幸夜も嬉しそう。

珠子「午前中、起こさないタイプの先生ばっかりでよかったね」

咲仁「わかってたから寝た」

幸夜「数学は叩き起こされてたけどね〜」

珠子「でも、さっきまで寝てたのにスラスラ答えててかっこよかった」

素直な感想を口にする珠子に、ショックを受ける幸夜。

幸夜「珠子ちゃん、やっぱり兄さんのことが‥‥!」

咲仁「男の嫉妬は醜いぞ」

幸夜「男女差別!」

咲仁「‥‥男だろうが女だろうが、嫉妬は醜いぞ」

じゃれてくる幸夜に呆れながらも言い直す咲仁。

幸夜「珠子ちゃん、兄さんのことどう思ってるのさ!?」

珠子「え、怖い‥‥」

幸夜の問いかけに、ほぼ即答する珠子。

幸夜「兄さんも!?」

咲仁「俺もって、オマエ‥‥珠子に怖がられてんのかよ」

驚く幸夜に呆れる咲仁。

幸夜「あ、珠子ちゃん。こんなところにケチャップが」

幸夜が珠子の手を取り、手首にぱくっとかみつく。
手首についたケチャップを舐めとられた珠子は真っ赤になるが、二人は平然と話をしている。

咲仁「なんで珠子に怖がられてんだよ」

幸夜「えー、カッコ良すぎて怖いみたいな?」

咲仁「嘘つくな」

過剰なスキンシップに動揺する自分がおかしいのかと混乱する珠子。

珠子(二人とも、こういうところが怖い‥‥!)

相容れなさを噛み締めながらも、話題を変えようと口を開く珠子。

珠子「そういえば、ベッドって今日届くんだよね?」

今日はゆっくり寝られると思って振った話題だったが、咲仁が一蹴する。

咲仁「キャンセルした」

珠子「なんで!?」

驚きのあまり席を立ちそうになる珠子。

咲仁「リビングで雑魚寝でいいだろ」

幸夜「今日も一緒に寝ようね〜」

珠子(それは困る、それは‥‥!)

珠子「咲仁くんもそれで寝不足だったんじゃないの?」

雑魚寝を拒否する珠子に、めんどくさそうな咲仁。

咲仁「いいから、オマエは今日も、俺らと一緒に寝るんだよ」

一緒に寝るなど教室で話していたため、クラスメイトに聞かれてヒソヒソと「ただれた関係?」などと言われているのに気がつく珠子。

珠子「教室でこんな話しないでよ!」

咲仁「オマエから振ってきたんだろ」

取り合わない咲仁。

珠子(絶対、部屋にカギつけなきゃ‥‥!)

咲仁「帰りは俺も一緒に帰るから、一人で帰んなよ」

ぶっきらぼうな咲仁に、珠子は困り果てている。

珠子「今日も用事あるから‥‥」

珠子(カギ、買いに行かなきゃ)

咲仁「また花と榴と帰るのか?」

珠子「違うけど」

咲仁「じゃあダメだ」

珠子「なんでよ!」

幸夜「危ないから、僕らと一緒に帰ろ」

咲仁「オマエは俺の言うこと聞いてればいいんだよ」

優しく言う幸夜と横暴な咲仁。

珠子(二人がついてきたら、絶対阻止されるよね‥‥)

珠子が悩んでいると、咲仁が口を押さえて激しく咳き込む。
いつもより止まらない咳に、心配そうにする珠子。

ようやく咳がおさまり咲仁が顔を上げると、口の端に血のようなものがついている。

驚く珠子。

咲仁「あー‥‥ケチャップだ」

咲仁はそう言うそばから、更に咳き込む。

咲仁「移るようなもんでもないから、心配すんな」

珠子「そんな心配してるんじゃない」

咲仁「メシにむせただけだ」

咲仁がそう言うも、咳は止まらない。

幸夜「保健室、行こっか」

血を吐いたのかと青ざめる珠子に、幸夜にうながされ仕方なく席を立つ咲仁。

幸夜「ごめんね、珠子ちゃん。先食べといて」

不安そうな珠子を置いて、幸夜は咲仁の背中を押しながら教室を出て行く。

○学校の廊下(昼休み)

幸夜「怪我してる?」

保健室へ向かいながら、咲仁に声をかける幸夜。

咲仁「いや。中で古傷が開いただけだ」

咳をしながら、右脇(肝臓の辺り)を押さえる咲仁。

幸夜「今朝のは?」

咲仁「ベランダに黒鷲(アエトス)が偵察に来ていた」

幸夜「鷲か〜、それは古傷(トラウマ)が開くねぇ」

奇妙な会話をする二人に、すれ違った生徒が不思議そうな顔をしている。

幸夜「まあ、人間らしく保健室で休んどきなよ」

保健室の前につき、咲仁を見送る幸夜。
保健室に入る前に幸夜を振り返り釘を刺す咲仁。

咲仁「絶対に、珠子から目を離すなよ」

○学校廊下(放課後)

咲仁「ーーって言っただろ、このバカ!」

生徒もまばらになった放課後の学校で、咲仁が幸夜に怒鳴っている。

幸夜「だって、女子トイレの中にまで着いてくわけにはいかないでしょ!?」

怒鳴る咲仁から身を守るように頭を抱えている幸夜。

幸夜「兄さんもなんで気づかないのさ!」

咲仁「寝てろって言ったのオマエだろ!」

ぎゃあぎゃあ言い合う二人だが、幸夜が恐る恐るといった風に咲仁に聞く。

幸夜「ちなみに‥‥今なんか見えてるの?」

幸夜の言葉に、周囲を気にしながらなにかを耳打ちする咲仁。
青ざめる幸夜。

咲仁「植木鉢もエアトスも、トラックもただの警告。
それを無視した結果だろう。
一緒に行動しすぎたか‥‥」

幸夜「今朝、相合傘で登校しちゃったのかマズかったのかなぁ」

咲仁「おまえ、そんなことしたのか」

幸夜の言葉に怒りを強める咲仁。

幸夜「だって、珠子ちゃんの傘壊れちゃったんだもん」

咲仁「おまえが濡れろ」

怒る咲仁から逃げるように歩き出す幸夜。

幸夜「とにかく、早く見つけなきゃ!!」

○土手沿いの道(夕方・小雨)

珠子(学校に折りたたみ傘置いといてよかったー)

折りたたみ傘をさしながら、一人歩く珠子。
土手沿いの道は、木や茂みなど緑が多い。

珠子(トイレの窓から逃げるのはやり過ぎたかな‥‥
でも、今日中になんとしてでも部屋にカギつけないと!!)

ぐっと手に力を入れて気合いを入れる珠子。

ふと、進行方向の茂みがガサガサと揺れているのに気づく珠子。

珠子が首を傾げながら見ていると、にゅっとヤギが茂みから顔を出す。

珠子(最近、雑草食べさせるのに飼う人いるっていうけど‥‥それかな?)

不思議に思いながらも、気にせず歩き続ける珠子。
ヤギが出てきても茂みはまだガサガサしている。

続いてヤギの顔の横にヘビも顔を出す。

これには驚いて足が止まる珠子。
茂みはまだ揺れている。

珠子(は!?)

続いて出てきたのはライオンの顔。
混乱してフリーズする珠子。

珠子(なに、これ‥‥‥‥)

茂みからライオンの足が出てくる。
それと同時にヤギの顔とヘビも出てくる。

ライオンが全身を表すが、ライオンの顔の隣にはヤギの顔がついており、ヘビはライオンのしっぽだった。
キマイラの登場に頭がついていかず、その場に踏みとどまったままの珠子。

ゆっくりと伸びをしてあくびをするキマイラ。
一連の動作が終わると、ライオン・ヤギ・ヘビ全ての頭が珠子を向く。

さすがにまずいと気がつき、踵を返す珠子。

珠子(なんなの!? なんなのよコレ!!)

走る珠子と追いかけるキマイラ。
キマイラの鬼ごっこが始まった。