○珠子のマンション・リビング(朝)

幸夜「珠子ちゃん、どうぞ。召し上がれ〜」

ハートのケチャップが描かれたふわとろオムライスに、盛り付けの綺麗なサラダとスープのセットがテーブルに並んでいる。
目をキラキラさせる珠子。

幸夜「珠子ちゃん、オムライス好きなんでしょ」

珠子「うん! いただきまーす!」

珠子こくこく頷きながら、嬉しそうにスプーンを手に取る。

咲仁「おい、俺との落差はなんだ」

珠子の斜め向かいの席に咲仁が座っている。

咲仁の前には、オムライスの卵は焦げて大穴が空き、ケチャップもおざなり、サラダとスープの盛り付けもわざとかというぐらいぐちゃっとした朝食が並んでいる。

幸夜「そりゃ、一番出来がいいのを珠子ちゃんにあげるに決まってるじゃん」

珠子「おいしい‥‥!」

オムライスを堪能して、キラキラしている珠子。
満足そうな幸夜。

溜め息をつきながらも、手を合わせていただきますをする咲仁。

幸夜も咲仁の隣に座って手を合わせる。

○珠子のマンション・玄関内(朝・雨降り)

珠子「けっこう降ってるね」

傘を持って玄関扉を開ける珠子。
マンションの廊下から、雨が降っている景色が見える。

幸夜「珠子ちゃん、傘ないから入れて〜」

珠子「パパの傘使っていいよ」

相合傘を目論む幸夜に、珠子が傘立てを指差す。

珠子「咲仁くんも使ってね」

残念そうな顔をしながらも、素直に傘を手に取る幸夜。
咲仁も傘に手を伸ばすが、その手が止まる。
剣呑な眼差しで、リビングの方を振り返る咲仁。

咲仁「先に行ってろ」

幸夜「‥‥わかった」

咲仁の言葉に、神妙な顔で頷く幸夜。

珠子「どうしたの?」

珠子は首を傾げている。

咲仁「忘れ物」

幸夜「わーい、珠子ちゃんと二人っきりだ〜行こう行こう〜」

一変してにこやかになる幸夜は、珠子をうながす。

咲仁「幸夜、カミナリに気をつけろ」

幸夜「はーい」

扉が閉まる前に、真剣な眼差しで声をかける咲仁。
幸夜が返事をして、扉が閉まる。

それを確認した咲仁は、リビングに戻っていく。

○通学路(雨)

傘を差して街中を並んで歩く珠子と幸夜。

幸夜「珠子ちゃんって、兄さんのこと好きなの?」

真顔で問いかけてくる幸夜に、動揺する珠子。

珠子「えっ! なんで?」

幸夜「今朝、洗面所で楽しそうだったから‥‥」

珠子「それだけで!?」

驚く珠子。

幸夜「だって今まで僕が好きになった子、みーんな、兄さんの方が好きだったんだもん」

ちょっと拗ねた様子の幸夜。

幸夜「友達も、僕は兄さんに才能全部奪われて生まれてきたんだってバカにするしさ」

傘をくるくると子どもみたいに回して歩きながら話す幸夜。

幸夜「実際、僕はバカで愚鈍だから、仕方がないんだけど‥‥」

自嘲する幸夜。

珠子「そんな卑屈にならないでよ。
昨日あったばっかりだけど、そんな風には思わなかったよ」

珠子の言葉に、ぱっと表情が明るくなる。

幸夜「じゃあ、僕のこと好き?」

珠子「えっ‥‥!?」

問われ、逡巡する珠子。

珠子「‥‥‥‥怖い」

幸夜から目を逸らしながら珠子が答える。

幸夜「なんで!?」

ショックを受ける幸夜。

珠子「だって‥‥」

珠子(ぐいぐい来るのが怖い。
なんか外堀から埋めてくる感じが怖い。
なんか笑顔が怖い)

目を逸らしながら思い浮かんでくるのは、悪口っぽいものばかりでとても本人には言えず、珠子は言い淀む。

珠子「ーーなんか、いつも無理して笑ってるみたいだから」

ようやく口をついて出た言葉に、珠子もしっくりきていた。

珠子(そっか、胡散臭いんじゃなくて無理してたのか)

珠子「咲仁くんと張り合わなくていいと思うよ。
もっと肩の力を抜いて、幸夜くんは幸夜くんでいいと思う」

ぽん、と幸夜の肩にふれる珠子。

珠子「まあ、無理して笑ってるのも、みんなを気づかってくれてるのかなって思うし、幸夜くんの良いところなんだろうけどさ」

にっこりと笑顔を向ける珠子に、驚いたような表情をする幸夜。

珠子「って、昨日知り合ったばかりの私が言うのもおこがましいんだけどね」

立ち止まる幸夜。
苦笑する珠子は、幸夜が立ち止まったことに気がついてない。

珠子「幸夜くんのなにを知ってるんだって感じだよね。
偉そうにごめん」

珠子の進行方向の先にある横断歩道の信号が青になる。

珠子「でも、これから知っていけたらいいなって思うしーー
って、あれ?」

幸夜がついてきてないことに気がつき立ち止まる珠子。

珠子「どうかした?」

振り返ると幸夜は俯いていて表情は見えていない。

幸夜のところに駆け戻る珠子。
珠子が幸夜の顔を覗き込むと、泣き笑いのような顔をしている。

幸夜「本当に‥‥君は変わらないね」

覗き込んできた珠子の頬を、指の背で撫でる幸夜。

幸夜「また珠子ちゃんに好きになってもらいたいなぁ」

独り言のような幸夜の言葉に、珠子は引っかかりを覚える。

珠子「また?」

誤魔化すように笑う幸夜。

幸夜「あれ、なんか言い回しおかしかった?
ごめんね〜、外国暮らしが長かったから。
日本語変でも気にしないでね」

まだ引っかかりは感じるものの、納得する珠子。

幸夜「とにかく、君が好きってことだよ。珠子ちゃん」

珠子の髪にキスする幸夜。

またキスされたと赤くなる珠子。

珠子「あっ、信号変わっちゃうよ!」

ごまかすように、横断歩道歩道に向かって走り始める珠子。
誤魔化されたと苦笑しながら、幸夜もそれを追いかける。

点滅し始めた横断歩道を小走りで渡り始める珠子。
珠子が横断歩道の真ん中まで来た時に、突如巨大な雷の音がして、閃光に辺りが真っ白になる。

珠子「きゃあっ!」

驚いて立ち止まり、目を閉じる珠子。

幸夜「珠子ちゃん、危ない!」

幸夜に強い力で腕を引っ張られ、傘を落とす珠子。
その傘の上を、猛スピードで突っ込んできたトラックが走る。
幸夜が腕を引かなければ、珠子が轢かれる位置だった。

ぐしゃぐしゃに壊れた傘に、ゾッとする珠子。

珠子(昨日もこんなことがーー)

植木鉢が落ちてきたことを思い出す珠子。

珠子(十六歳って、厄年じゃないよね‥‥?)

横断歩道の信号が赤に変わる。

○珠子の高校・生徒会室

窓際で、生徒会長の桜花美琴(長髪、切れ長の目をしたイケメン)が雨の中登校する生徒たちを見下ろしている。
眉を顰める美琴。

「悠長なことは、していられないかな」

その視線の先には、相合傘で登校してくる珠子と幸夜がいた。