○ 学校・中庭(昼)

咲仁に抱きしめられている珠子。
何が起きたのか混乱して、赤くなりながら目をぱちくりしている。

間があって、さっきまで珠子がいた場所に植木鉢が降ってきて砕け散り、その音にビクッとする。
幸夜は少し体をずらすだけで、自分で避けていた。

幸夜「兄さん、僕も助けてよ〜」

咲仁「お前は必要ないだろ。
どんくさいコイツだけで十分だ」

咲仁は珠子の体を離す。
双子は平然としているが、珠子は砕け散った植木鉢を見て青くなっている。

幸夜「珠子ちゃん、怪我ない? 大丈夫?」

珠子「う、うん。だいじょうぶ」

呆然としたまま頷く珠子。
チャイムが聞こえてくる。

幸夜「珠子ちゃん、教室戻ろうか」

幸夜に手を引かれて歩き出す珠子。

○珠子のクラス

教室に戻るともう教師が来ており、珠子が席に着くと右隣に幸夜・左隣に咲仁が座る。

珠子「え?」

珠子が左右を交互に見ると、幸夜が机に肘をついて顎を乗せながらニコニコと珠子を見てくる。

幸夜「席、変わってもらっちゃった」

双子が元いた席を見ると、友達ABが座っている。

友達A「いいのよ、珠子! 二人からもう事情は聞いたから」
友達B「なにも言わなくていいから!」

二人はいいからいいからと手を振るが、珠子の表情は冴えない。

珠子「何言ったの!?」

声をひそめて幸夜に問うが、ニコニコ笑ってるだけ。

幸夜「さあね〜」

咲仁の方は興味なさそうに次の教科の準備をしている。

幸夜「珠子ちゃん、まだ教科書ないから見ーせて」

自分の机を珠子の机にくっつけてくる幸夜。
まさか咲仁もと身構えるが、咲仁を見ると教科書を持っている。

幸夜「一冊しか、準備間に合わなかったの」

胡散臭い幸夜の笑顔に何か言いたげな珠子だったが、授業が始まる。

教師「教科書、55ページから〜」

仕方なく、二人の机の間に教科書を広げる珠子。

○珠子のクラス(放課後)

幸夜「珠子ちゃん、一緒に帰ろ」

珠子が帰り支度をしていると、幸夜がにっこり話しかけてくる。

珠子「ご遠慮します!」

咲仁「帰るぞ」

咲仁まで言い出して、挟み撃ちにされる。

珠子「今日は、先約があります!」

睨むような眼差しの咲仁に一瞬怯むが、つっぱねる珠子。

咲仁「なに、先約って?」

咲仁に睨まれて、カバンをぎゅっと抱きしめる。

珠子「花とケーキ食べに行く約束してるの」

咲仁「なんだ。ならいい」

あっさりと引き下がる咲仁。

幸夜「気をつけて帰ってね」

連れ立って教室を後にする双子。
幸夜は教室から出る前に珠子を振り返るが、咲仁はそのまま言ってしまう。
なんだったんだろうとぽかんとする珠子。

花「珠ちゃん、ごめんだけど榴も一緒でいいかな?」

花が駆け寄ってきて手を合わせてお願いしてくる。

珠子「榴先輩もお祝いしてくれるの?
もちろんいいよ!」

笑顔で承諾する珠子。

珠子「三人で行こ行こ」

花「ありがとう!」

花は教室の入り口で待っていた榴のところに駆けて行き、珠子もその後を追う。

花「榴! オッケーだって〜」

榴「急な申し出で悪かったな」

珠子「いえいえ全然!」

珠子の香りに気がつく榴。

珠子「花と同じ匂いがする」

花「おそろいのボディーミストあげたんだ〜
毎日使ってね!」

談笑しながら教室を後にする三人。

○カフェ(夕方)

Happy Birthday to Tamakoとチョコレートで書かれたプレートに、ロウソクが一本刺さりデコレーションされたプチケーキが乗っている。

花・榴「お誕生日おめでとう!」

にこやかに花と榴が珠子をお祝いする。
珠子が笑顔でロウソクを吹き消すと、花と榴が拍手する。

珠子「ありがとう!」

花はチョコレートケーキ、榴はフルーツパフェ、珠子もケーキを食べ始めて談笑する。

珠子「花の家厳しいから、なかなか二人っきりじゃ会えないんですよね。
こういう機会にでも、デート気分楽しんでいってください」

榴「ありがとう。
でも、そのために参加したんじゃないからな。
純粋に、お祝いしたくて‥‥」

真剣に弁明する榴に、珠子も弁解する。

珠子「もちろん、そんなんじゃないってわかってます!
ただ、二人にももっと楽しんで欲しいなって思って」

花「ありがとう、珠ちゃん」

にっこり笑う花の口元にチョコがついている。
それに気づく榴。
榴がそのチョコを親指でぬぐって舐める。

榴「おいしい」

花「一口食べる?」

榴にチョコケーキを食べさせる花。

榴「俺のもあげる。なにがいい?」

花「イチゴちょうだい」

榴も花に苺を食べさせる。

榴「他は?」

花「いいの? じゃあ、メロンも〜」

目の前でいちゃつく二人を満面の笑顔で見ている珠子。

珠子(ラブラブいいなぁ〜!)

珠子「私も彼氏欲しー‥‥」

思わずこぼれた珠子の言葉に、二人の視線が珠子に集まる。

花「幸夜くんは!?」

榴「婚約者なんだろ?」

花は笑顔、榴は真顔で珠子に問う。
萎縮する珠子。

珠子「なんで榴先輩まで知ってるの〜」

榴「目立つ双子だからな。もう三年の教室まで噂が流れてきた」

頭を抱える珠子。

珠子「婚約者って言ってもパパが勝手に言ってるだけだし、今朝初めて会ったばっかりなんだよ」

花「でも、幸夜くんカッコいいじゃん。優しそうだしさ、結構ラッキーじゃない?」

珠子「ラッキー、か‥‥」

珠子(確かに、そうなのかな。
あんなイケメンが婚約者で、しかも私なんかに一目惚れしてくれるなんて、そうそうないよね)

フォークを口にくわえて悩む珠子。
その向かいではまた花と榴がいちゃついている。

花「でも、私にとっては榴が一番カッコいいし一番好きだからね」

榴「知ってる。
俺にとっても、花が一番だよ」

いちゃつく二人を見ながら、頬や額にキスして好きだよと行ってきた幸夜の姿が脳裏によぎり、頬を染める。
咲仁にも抱きしめられたことを思い出し、真っ赤になる。

珠子(凄い一日だったなぁ‥‥)

○珠子のマンションの前(夕暮れ)

マンションの前には引越しのトラックが止まっている。

珠子「すみません、私まで送ってもらっちゃって」

榴「気にするな」

花「お家入って、鍵かけるまでは油断しちゃダメよ。女の子の一人暮らしは危険がいっぱいなんだから!」

花と榴と別れて、マンションに入っていく珠子。

○珠子のマンションの廊下(夕暮れ)

珠子(あれ。パパ、帰ってきてる‥‥?)

珠子がマンションの廊下を進んでいると、自宅玄関の扉が開いている。

引越し業者「ありがとうございましたー!」

引越し業者の帽子と制服を着た男性が珠子の家から出て行く。
驚きの表情ですれ違った引越し業者を見送る珠子。

珠子(まさか‥‥)

嫌な予感がして、自宅に駆け込む珠子。

○珠子のマンション・玄関

靴箱の上には今朝贈られた花が花瓶に入れられて飾られている。

幸夜「お帰り、珠子ちゃん」

咲仁「遅かったな」

帰宅した珠子を出迎える幸夜と、通りすがりに声をかけるだけの咲仁。

珠子の自宅内には引越しの段ボールが積まれており、双子が珠子の家に引っ越してきたのは明白だった。

幸夜「寂しかったよー!」

両手を広げて抱きついてくる幸夜。

幸夜「お風呂にする? ごはんにする? そ・れ・と・も、僕?」

そう言って珠子の鼻に鼻を擦り付ける幸夜。
至近距離で見るイケメンに真っ赤になりつつ、それどころじゃない珠子。

珠子(引越してくるなんて、聞いてない!!)