○珠子のマンション・珠子の自室(深夜)

ベッドの上で部屋着でくつろぐ珠子(これといった特徴のない、平凡な容姿)。
枕に肘をついてうつ伏せになり、スマホをさわっている。

画面には友達からのメッセージが表示されている。

花『ハッピーバースデー!
16歳のお誕生日おめでとう。
珠ちゃんと一緒にいるといつも元気をもらえるな。
これからもよろしくね。
明日のプレゼント、楽しみにしてて。
放課後のケーキも楽しみ!』

メッセージの送信時刻は0時00分で、メッセージの下には黒い犬が花束を持っているイラストが表示されている。

ニコニコと友達からのメッセージを珠子が見ていると、新しいメッセージが届く。

パパ『Dear 珠子
お誕生日おめでとう。
あんなに小さかった珠子がもう十六歳かと思うと感慨深いです。
一人の生活には慣れましたか?
誕生日なのに帰れなくてごめんなさい。
クリスマスまでには一時帰国出来ると思います。
お友達と楽しい誕生日をお過ごしください。

P.S.取って置きのプレゼントを送りました。
明日の朝には到着すると思うので、楽しみにしていてください。』

ごろりと仰向けに寝転がり、片手でスマホを掲げて父親からの文面を眺める珠子。

珠子「プレゼントって、なんだろう‥‥」

珠子(この時はまだパパのプレゼントの正体も
訪れる過酷な運命にも
私はまだ気がついていなかったーー)

○珠子のアパート・玄関(朝)

幸夜「Happy Birthday」

メッセージカードのついた花束を持った私服姿の幸夜(ふわふわの髪は色が薄く瞳の色は緑がかっており、外国の血を感じさせる整った顔立ち)が流暢な英語で微笑み、玄関の真ん前に立っている。
その奥には、そっぽを向いて咳をしている私服姿の咲仁(幸夜と同じ顔立ちだがマスクをしており、癖のない黒髪と赤みの強い瞳の色をしている)がいる。

玄関を開けた体制で目を丸くして固まっている制服姿の珠子。

幸夜「やっと、会えた‥‥嬉しい!」

感極まって涙ぐむ幸夜は、珠子に花束を渡すと同時に頬にキスをする。

珠子(な、何!? 誰!?)

キスされた頬を押さえ、真っ赤になりながら後退る珠子。

珠子「ひ、人違いです!」

珠子は叫ぶと扉を強く閉める。
残された幸夜はきょとんとして、咲仁は我関せずでそっぽを向いたまま咳をしている。

○珠子のマンション・玄関内(朝)

珠子(ビ、ビックリした〜!)

珠子は花束は手に持ったまま、玄関扉を背に腰が抜けたようにしゃがみ込む。

珠子「外国の人? 部屋番号間違えたのかな‥‥」

独り言をつぶやきながら花束を見ると、メッセージカードに高良珠子様と書かれている。

珠子(人違いじゃない‥‥?)

唖然としていると背にした玄関からコンコンとノックの音がして、ビクッとする珠子。
珠子がドアスコープをのぞくと、咲仁が立っている。

咲仁「弟が急に済まない。俺たちは高良喜久の紹介で来た」

マスクをズラして咲仁がしゃべる。

珠子「パパの知り合いなの?」

扉越しに聞き返す珠子に、困惑顔になる咲仁。

咲仁「俺たちのこと、聞いていないのか?」

珠子「き、聞いてないです!」 

珠子の返事に咲仁の表情が曇る。

咲仁「そうか‥‥それは済まないことをした。なにか手違いがあったのかもしれない。改めて出直すことにする」

ドアスコープに頭を下げて、渋る様子の幸夜を引きずって立ち去る咲仁。
ドアスコープからその様子を見て、ホッと胸を撫で下ろす珠子。
ハッとした顔で珠子が靴箱に置かれた時計を見ると、顔色が変わる。

珠子「遅刻〜!!」

○学校・珠子のクラス(ホームルーム前)

花「珠ちゃん、お誕生日おめでとう!」

珠子が疲れた様子で席に座っていると、花(珠子より童顔で小柄、セミロング)が笑顔で現れる。

珠子「花! おはよう。ありがと〜」

花「どうしたの? 朝からお疲れじゃん」

珠子「それがさあ〜」

花に今朝の出来事を話そうとして、頬にキスされたことを思い出して赤くなる珠子。

珠子「なんでもない‥‥遅刻しそうでダッシュしただけ」

珠子の言葉に、あははっと笑う花。

花「そんなお疲れの珠ちゃんに、こちらをプレゼント!」

ジャジャーンと口で効果音をつけながら、花がラッピングされた小さな箱を手渡す。

珠子「わあい、ありがとう!」

笑顔で受け取る珠子。

珠子「なんだろう。さっそく開けていい?」

花「もちろん」

笑顔で頷く花に、珠子は丁寧にラッピングをほどいていく。

珠子「わあっ! これってもしかして?!」

箱の中から出てきたのは、シンプルなデザインのボディーミストだった。

花「欲しいって言ってたでしょ? 私とお揃いのボディーミスト」

珠子「嬉しい! 花がいつも使ってるやつ、どこにも売ってないんだもん」

花「極秘ルートで入手いたしました〜」

冗談めかして言う花に、笑い合う二人。

友達A「珠子! はぴば〜」

友達B「これ、私たちから」

花以外の友達からもプレゼントをもらう珠子。

珠子「ありがとう!」

透明なラッピングで、中身は入浴剤のセット。

友達A「放課後ケーキ食べに行くんでしょ?」

友達B「私たちも行きたかった! 塾じゃなかったらなー」

友達A「私たちの分も楽しんできてー」

珠子「めっちゃ美味しいの食べてくるから!」

花「写真送るねー」

談笑していると、さらに友達がやってくる。

友達C「ねえ、聞いた!?」

興奮した様子の友達C。

友達C「あ、珠子。はぴば〜
昨日あげたマカロン美味しかった?」

珠子「うん、美味しかった。ありがとう」

友達A「聞いたって、なにを?」

友達C「転校生!」

友達B「こんな時期に? 珍しいね」

友達C「それがさあ、めちゃイケメンの双子の帰国子女なんだって!」

花「あ、さっき職員室で会ったよ」

友達C「本当!? どうだった? イケメン?」

花「うん。かっこよかったよ」

友達A「榴先輩と付き合ってる花が言うんだから、間違いないね!」

友達B「榴先輩もイケメンだもんね〜」

友達C「うわ〜、楽しみ〜!!」

盛り上がる友達をよそに、珠子はどこか浮かない顔。

珠子(双子‥‥)

珠子の脳裏に、今朝の二人の顔が浮かぶ。

珠子(いやいや、そんなまさかね!)

笑って不安を吹き飛ばそうとする。

○珠子のクラス(ホームルーム)

教師「みんな席につけ〜」

教師が教室に入ってきて、クラスメイトたちが慌てて席に着く。

教師「もう噂になってるみたいだから、先に紹介しておく。転校生の二人だ」

教壇に立った教師の紹介で、教室の扉が開き先に咲仁、後から幸夜が入ってくる。
二人は制服姿。咲仁は相変わらずマスクをしている。

珠子(そんなまさか‥‥!!)

二人の登場に蒼くなる珠子。
イケメン二人に色めき立つ教室。

友達A「わあ〜、イケメンが二人も‥‥」

友達B「このクラスでよかった‥‥!」

珠子の左右の席で友達A Bが感嘆しているが、珠子は双子の方を見れないでいる。

教師が黒板に「敷智咲仁」「敷智幸夜」と書く。

教師「じゃあ、お兄さんの方から自己紹介よろしく」

咲仁「敷智咲仁です」

短くそれだけを言うと、表情も変えずに軽く会釈をする咲仁。

教師「‥‥‥‥じゃあ、弟くんもよろしく」

にっこりと笑顔を浮かべて一歩前に出る幸夜。

幸夜「敷智幸夜です。
両親の仕事の都合でずっとギリシャに住んでいました。
日本に住むのは久しぶりでわからないことも多いので、いろいろと教えてください」

爽やかなスマイルで首を傾げて見せる幸夜に、クラスの女生徒たちが色めき立つ。

幸夜「高良珠子ちゃんとは婚約者なので、よろしくお願いします」

ぺこりとお辞儀する幸夜の突然の宣言に、更にクラスが騒がしくなる。
幸夜の言葉に、咲仁がこめかみを押さえ頭が痛いポーズをしている。

友達A「ちょっと珠子! どういうことなのよ!?」
友達B「二人と知り合いなの!? 婚約者って!?」

珠子の左右の席から友達が声をかけてくるが、珠子は耳に入っていない。
愕然とする珠子に、幸夜がウインクを投げている。
キザな仕草も、絵になっていた。

珠子(婚約者って、どういうことー!?)