21時を過ぎている時間帯。
部活から帰宅して、自宅でゆっくり過ごしてるはずの時間なのに。

「わざわざありがとね」

虎太郎の手から手提げ袋を受取ろうとした手を、もう片方の手で握られ、抱き寄せれた。
「これは口実です。俺が会いたかったんで」
「っ…」

卒業して以来、虎太郎の態度が一変した。

前は都度許可を得るほど、何をするにも見えない壁のようなものが存在していたが。
最近はこうして、突然やってくることが多くなった。

「先輩のイケ活に嫉妬してんすけど」
「っっ」
「いっそのこと、俺んちに住みません?空いてる部屋ありますし、大学へも近くなりますし」
「……」
「毎日会いたいのに…」

まだ敬語口調はあるけれど、ストレートな態度に示すようになった。

私だって会いたいよ。
だけど、新人戦を間近に控えてて、毎日大変なのも分かってるから。

受験を理由に、ずっと彼に我慢させていた私は、『デートがしたい』だなんて口が裂けても言えないよ。

今までは学校の学食で毎日会えた。
だから、会えないことがこんなにも辛いものだと知らなかった。

生まれて初めての恋。
初めて好きになった人。

高校を卒業したからといって、心まで成長するわけじゃない。
私の心は、まだ未熟すぎる。

「先輩、聞いてます?」
「……聞いてるよ」

彼の言葉に何も返さないから、少しきつめに抱きしめて訴えられる。

私だって会いたかったよ。
それを口にしたらダメなことくらい分かってるから。
今はもう、何も言わないで。

「また『先輩』って言った」
「あっ」
「次言ったら、お仕置きだよ」
「先輩先輩先輩先輩先輩先輩「しつこいっ!」
「お仕置きって、何すか?」
「目を輝かせないっ!」