話を聞くと、毎年空手道場の主として、ご両親は主要な大会に引率してるらしくて。
高校選抜ももちろん、ご両親揃って行くらしい。
高校を卒業して、大学入学まで少し時間があるということもあって。
彼は母親に『彼女の分も』と既に注文済みなのだとか。
道場に通う子たちの保護者が何家族かいて、その人たちの分も一緒に纏めて予約したらしい。
私の分が増えたくらい、どうってことないからと。
まだ、3回しかお会いしてないのに。
ご両親と一緒の宿泊施設で泊りだなんて。
ちょっと、ハードル高すぎない?
「試合が終わったら、少し時間が取れると思うんで」
「……ん?」
「自由行動の時間にデートしましょうね」
「っ……」
にかっと笑う彼は、私の手をぎゅっと握り返して来た。
もう無毒というか、逆に猛毒というか。
こういう顔されたら、『しょうがないなぁ』って言ってしまいそう。
「それと」
「……ん?」
急に立ち止まった彼。
私の方に体の向きを変えて、真っすぐと見つめて来た。
「選抜で優勝できたら」
「……できたら?」
「名前、呼び捨てに昇格してもいいっすかね?」
「へ?……えっ、いいよ、そんなの、いつだって。別に優勝しなくてもっていうか、今すぐでも呼び捨てでも全然いいよ」
「え、いいんすか?」
「いいよいいよ。ってか、その方がありがたい」
「え、何でですか?」
「今のこの会話だって、知らない人が聞いたら、私が年上だってバレるし、私が従えてるみたいにとられるよ」
「……あ」
「だから、呼び捨て全然OKだし、今の敬語口調みたいなのも全部なくして貰って、松永くんに話してるみたいにしてくれた方が嬉しいから」
「……なんかムズ痒いっすね」
「それそれ、『っすね』は要らないんだってば」
「あ」



