3月1日。
とうとうこの日がやって来てしまった。

今日で高校を卒業する。

卒業式をお祝いしてくれるかのように晴れ渡っている。

「雫、高校最後の『いってらっしゃい』ね」
「……お母さん」

一人娘の私は、当たり前だと思っているこの朝の瞬間も、本当は物凄くかけがえのない日常なんだと改めて知る。

「行って来ます」
「行ってらっしゃい」

父親は昨日から福岡の新店の応援に行っていて、30分ほど前に『卒業おめでとう』の電話を貰った。

最後だと思うと、やっぱり寂しさが込み上げてくる。

いつもより何本か早い電車に乗ることを約束したため、駅のホームで親友2人を待つ。

「雫」
「ちーちゃん、おはよう」
「咲良はまだ?」
「うん、まだ」
「さすがに卒業式に遅刻しないよね?」
「さすがにそれは…」

さっちゃんは朝に弱くて、いつも電車の時間ギリギリに走って来る。

「何本か早い電車だし、待っとこ?」
「そうだね」

さすがに最後の日は、3人で登校したい。
正門の前に飾られる看板の前で写真を撮ろうということになってるから。

「あ、来た来た」
「ごっめ~~んっ、髪巻いてたら遅くなったぁ」
「わぁ、可愛いお団子だ」
「軽く巻いとくと可愛く仕上がるんだよね~」
「今度教えて」
「いいよっ」

直毛に近いストレートロングの雫にとって、さっちゃんの器用さは本当に羨ましい。
たまに、休み時間に可愛くセットしてくれたりしたけど、もう同じ教室で学ぶことは無いんだ。

ちーちゃんもさっちゃんも第一志望校に無事に合格し、私たちは4月から大学生になる。