19時を過ぎると、『今終わったんで、一旦家に帰ってから行きます』というメールが届いた。
『気を付けてね』とだけ返信して、2階の自室からリビングに下りると。
母親が近くのお寿司屋さんから出前を取ってくれたらしい。
ダイニングテーブルの上に普段は見ないようなお寿司が並ぶ。
スマホのカメラ機能で前髪をチェックしていると。
「彼氏くんが来るの?お寿司追加で頼もうか?」
「えっ、いいよ」
「えぇ~なんで~?せっかくのお祝いなのに」
「それはまた今度で」
母親はすでに付き合ってると思ってるけど、本当は今日が付き合いし始めの日だ。
さすがに初日に家族で祝うのも、ちょっとね。
自分の大学合格祝いだってのは分かってるけど、同時に交際1日目だとカウントされるわけだから。
こんなめでたい日は無いよね。
一生忘れないと思う。
父親が珍しく『今日は帰る』というメール寄こして来たらしい。
さすがに、一人娘の合格祝いは欠かせないと思ったのだろう。
「お父さん、帰って来るの何時くらいなの?」
「20時前には帰るって」
「そうなんだ」
母親が付け合わせとお味噌汁を作ってくれているようだ。
美味しそうな匂いが漂って来る。
リビングでテレビを観ていると、スマホに『家の前に着きました』という表示が。
慌てて玄関へと駆けてゆく。
母親の『あらあらっ』なんて声が聞こえたが、相手をしてる場合じゃない。
寒い中、わざわざ来てくれた彼のために、玄関ドアを勢いよく開けると。
玄関ポーチのフェンスの向こう側に立ってる彼が、ちょっと照れくさそうに小さなブーケを差し出して来た。



