猛虎の襲撃から、逃れられません!(加筆修正中)



14時過ぎ。

「どうぞ」
「お邪魔します。あれ?雫先輩のお母さんは?」
「それがね…」

つい数時間前、祖父(母の父)がぎっくり腰になってしまい、電話がかかって来たのだ。
母には兄がいるが、地方に住んでいるため、何かあった時はいつも母親のスマホに連絡が来る。
保険外交員だから、病院へ行くにも頼りになるからというのもある。

「大丈夫なんすか?うちの部の監督も今年やって、結構大変そうでした」
「うちのおじいちゃんはしょっちゅうなんだよね」

毎年のようにぎっくり腰でヘルプ要請が来るのだ。
母も手慣れたもので、必要なものをパッと纏めて出掛けて行ったから。

「作ってる途中で出掛けちゃったから、残りを私がしてるんだけど、ちょっと自信がなくて。変な味だったらごめんね?」
「えぇ~っ、先輩の手作りっすか?俺、オールOKっす!」

本来なら、母親が腕によりをかけた手料理で夕食を振る舞う予定だったが、煮込みハンバーグもハンバーグしか出来てなかった。
揚げ物も下準備は出来ているけれど、全く揚がっていない。

「まだ時間早いから、17時すぎくらいになったら手伝ってくれる?」
「俺、やったことないっすよ?」
「手伝う程度でいいから」
「それなら」

今夜、母親が帰って来るかは定かではない。
父親は大手外食産業の統括部長をしていて、今時期は週に3日帰ってくればいい方。
イベントフォローや新店応援などで、毎日忙しくしている。

「あっ、これ。うちの親からっす」
「わぁ、ありがとう」

銀座に本店のあるゼリー専門店の紙袋。
初めてのお宅訪問ということもあって、気を遣ってくれたみたい。

「ご両親に宜しくお伝えしてね」
「はい」
「夕方まで、どうしようか。映画でも観る?」
「ピアスの穴、開けなくていいんすか?」
「っ……、開けてくれるの?」
「北島先輩から、何度もメールで念押しされたんで」
「っっ…、さっちゃんったら…」