「組手だと、拳サポーターってのを着けるの。ボクシングのグローブみたいな」
「あーねー」
「メンホーと言われる頭を守る防具も着けるし、マウスピースも必須」
「マウスピースするの?」
「寸止めしないと反則技になるんだけど、絶対に当たらないとは限らないの。お互いに動いてるしね。読み間違えてテクニカルヒットみたいに当たって気を失うこともある」
「やばっ」
「この間の練習試合でも倒れてた人いたもんね」
「如何に当てずに寸止めできるかが、腕の見せどころのスポーツなの、空手って」
「むっず~~っ」
「津田くんの上段蹴り、めちゃくちゃ早かったんだからっ!咲良も観たら絶対感動するって」
「観たじゃん、動画で」
「あっ…」
インパクトのある瞬間は上書きされるというが、本当にそうらしい。
試合動画をスマホで観たことすら忘れてたみたい。
「別にペアに拘ることないんじゃない?雫から貰えるなら、彼は嬉しいと思うけど」
「そりゃあそうだろうけど。けどやっぱりさ、特別な意味合いを込めるなら、拘り抜いた物の方が嬉しいじゃん」
「私は尚理から貰えるなら、値下げシールが貼ってあるプリンでも嬉しいけど」
「あーもーっ、そういう問題じゃないんだってばっ」
『嬉しい』という意味合いなら、たぶん何でもいいに決まってる。
だけど、受験が終わるまで焦らすみたいに我慢させるための何かと考えたら、出口の見えない迷路に迷い込んでしまったみたいにぐるぐると考えすぎて。
もう何日も同じことを考えてて、勉強が手につかない。
このままじゃ、A判定の志望校も危ういんじゃないかと不安にもなる。



