その大会で、型(演舞)と組手の両方で優勝した彼女。
別の道場所属だが、うちの道場でもかなりの有名人だった。

力強くキレキレで、俊敏なのにとても優雅。
息をのむほどの美しさがある演舞()をする選手。
小学生なのに、大人の選手が演舞しているのかと錯覚するほどの動きで、彼女が一礼をすると、一瞬で会場が引き込まれた。

組手では圧倒的なスピード感と、全く動きが読めない技の連続で。
大きな試合会場の隅から観ているのに、彼女の息づかいですら伝わって来そうなほどの迫力だった。

大技とも言える上段蹴りを華麗に決めることでも有名で、開始数秒で上段回し蹴り(一本)が決まった試合は、もはや伝説となっている。

そんな雲の上の存在の人物が、自身の優勝メダルからリボンを外し、号泣する少年に躊躇することなくプレゼントしたのだ。
毎日恐ろしいほどの稽古を積み重ねても、手にできる人はほんの一握り。
そのメダルが、どれほどの価値のものか。
想像するだけでも鳥肌が立つ。


今も大事に額に入れて飾っている。
俺にとったら、空手の女神様からの贈り物だから。

メソメソと泣いている男の子が目障りだったのかもしれない。
たくさんのメダルやトロフィーを手にしている彼女にしてみれば、メダルリボンの一つや二つ、失くなってもそれほど気にもならなかったのだろう。



「あの日に、次会う時は必ず強い男になって会うんだって心に誓ったんで」
「……フフッ、凄い、有言実行じゃない」

メダルリボンに恥じない空手を。
再会した時に、リボンをくれたことを後悔して欲しくなくて。

あなたの前に堂々と立つために、死ぬほど努力をして来たんです。