周りの視線を完全シャットアウトするみたいに、彼の胸に埋まる。

大柄な彼だから。
彼限定と言ってもいいくらい?

他の人から見れば、私はデカくて大柄で可愛くなくて、色気もないのに。

彼の前だと、一瞬自分が普通の女の子に思えてくる。


「先輩、めっちゃいい匂いする」
「ッ?!……やだっ、変に嗅いだりしないでよっ」
「え、いいじゃないですか、匂いくらい嗅がせてくれたって」
「それ、変態の人が言うセリフだよ」
「変態でも鬼畜でも何でもいいっすよ。先輩の匂いが嗅げるテリトリー内に、俺だけが入れるんなら」
「っっ」

クンクン鼻を鳴らしながら、嗅ぎ続ける彼。
さすがに照れで自爆しそうだ。

「本気で言ってるの?」
「冗談に聞こえるんすか?」
「罰ゲームとか、賭け対象とかじゃなくて?」
「俺、そんなことする人間に見えるんすね」
「……っ」

離れていく彼の気配。
ちーちゃんとさっちゃんには『自信をもって』だなんて言われたけれど、長年抱えてきたコンプレックスがそう簡単に消えるはずがない。
彼を怒らせてしまったかもしれない。
でも、これでいい。
彼とは住む世界が違い過ぎる。

この先、世界中の美女と出会うチャンスが幾らだってあるだろうから。
こんなデカくて色気もない枯れ女に構うことなんてない。

彼に気づかれないように深呼吸する。
彼のお陰で初めて行けたあのショップのことも。
男の子と二人きりで街歩きしたことも。
いい想い出になると思う。

「今日はありがとうね、誘ってくれて。もう会うこともないと思うけど、空手頑張ってね」
「はぁ?……何、1人で自己完結してるんすか。超意味わかんね」
「……?」
「次のデートいつにしようかめっちゃ考えてたのに」
「え……えぇぇぇっ?!」
「俺先輩のこと、めちゃくちゃ好きなんで!今日のこともテラスでのことも、無かったことにはしませんよ」