「先輩、すっごい楽しそうでしたね」
「凄く楽しかったよっ!だって、初めて来たんだもん」
「へ?」
「……いつか来たいなぁとは思ってたけど、さすがに1人で来るのはハードルが高くて」
「マジっすか?北島先輩や天野先輩と来たりしないんですか?」
「こういうお店には……ね」

世界最大規模を誇るアニメショップの本店は、フロアごとにグッズ売り場や催事スペース、ゲーム関連にアニメイトシアターまで完備されている。
彼から声をかけられるまで今が何時なのかすら忘れるくらい、アニメの世界に魂が旅をしていた。

「じゃあ、いつでも俺がお供するんで」
「……いいの?」
「いいも何も、先輩と趣味全開のデートだなんて、俺にとったらご褒美以外の何物でもないっすよ」

ショップを出た雫と虎太郎は、少し早めの夕食をとるために池袋内を散策する。

『デート』だなんて、私には無理だと思ってた。
男の子と二人きりで歩くことすら想像できなかったのに。
今は意外にも自然と肩を並べて歩けている。

「先輩、何食べたいですか?」
「ん~、好き嫌いないから、津田くんお薦めでいいよ?」
「ラーメンでもいいっすか?」
「うん、いいよ」

眼力があって、迫力がある体だから先入観で凶暴そうに見えてしまうけれど。
店内での彼の言動や、こうして私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれるところは、彼なりの優しさが込められている。

「聞きたかったんすけど、アルディ推しですか?」
「へ?」
「この前、駅でぶつかった時、スマホの画面がアルディだったんで」
「……あれは」