今までプロポーズは100回以上されて来た。
だけど、一度だって指輪の存在をチラつかせてることなんて無かったのに。
「本当は、世界王者になった時に渡したかったんだけど。さすがに学生の身分で、冗談だと取られても困るしさ」
「……」
「その次は就職が決まったタイミングでって思ってたけど、臨床実習(5年生~)で忙しくしてたし、結構すれ違ってたしさ」
「……」
「クリスマスに贈ろうと思ったら、雫、インフルに罹ったじゃん」
「っ…」
「で、結局タイミングずれずれで渡せずじまいで」
そうだったんだ。
ダッシュボードに入れっぱなしってのは理解しがたいけど。
虎太くんなりに色々考えてくれてたんだね。
「っつーか、雫は何で今のタイミングなわけ?しかも、あの返しは予想してなかったわ、俺」
「……ごめんね」
私も私だよね。
プロポーズの返事をあんな風に返さなくてもよかったよね。
「本当はね。……私からプロポーズしようかと考えてたんだけど」
「は?」
「色々考えてたら、もう何が正解なのか分かんなくなっちゃって」
私から指輪を贈ることも考えた。
だけど、サイズは分からないし、女性と違ってエンゲージリングは普通男の人はしないから。
ネクタイピンを贈るにしても、腕時計を贈るにしても。
悦ぶ彼の顔は想像できたけど、いつも余裕な顔の彼が動揺する姿が見たくなったの。
今まで彼女らしいことをちゃんとしてなかったから。
「彼女として、最後くらいはカッコよく決めたいじゃない」
私には『可愛い』は無理だと分かってるから。
せめて、私らしく。
大技で勝負したかったのよ。



