「雫のお父さんって、次いつ帰って来るんだっけ…?」
「お父さん?う~ん、昨日帰って来たから、たぶん数日は家にいると思うけど」
「マジで?」
「……ん?」
「よし、お父さんの好きな日本酒と『鴨善』の焼き鳥買って帰るぞ」
「えっ、どうしたの?急に…」
「っんなの、決まってんだろ。結婚の……いや、婚約か?どっちでもいいや。雫の気が変わらないうちに、ご両親に報告しとかないと!」
「っっ…」
醇酒が好きな父親。
お米の濃厚な味わいとふくよかな香りに拘りがあるみたいで、今では結構お酒を酌み交わす仲。
一人娘の相手として、お酒を通して彼を見ているみたい。
焼き鳥では珍しいほろほろ鳥を備長炭でじっくりと焼いた串焼きも好物の父親。
日本酒と鴨善の串焼きを手土産に、父親のご機嫌取りをしたいらしい。
大手外食産業の統括部長として、たくさんの美味しいものを食べて来た父親が、虎太くんとの食事は『格別な味がする』と口にする。
報告も何も、オリンピック前に婚姻届を持って来た時から、うちの両親はもう、虎太くんを認めてるのに。
「おっと、その前に」
「……ん?」
車のエンジンをかけた彼が、突然腕を伸ばして来た。
「えっ……?!!」
「手、出して」
「まさかとは思うけど、ずっとここに入れてたんじゃないよね?」
「いや、そのまさかだけど?」
「どうかしてるよ!!」
「そうか?」
助手席の前にあるダッシュボードから手乗りサイズの小さな箱を取り出した彼。
ぱかっと開いた中にあったのは、ドラマや映画でよく見るアレだ。



