映画や買い物といったデートはよくしてるけど、さすがに不動産屋に一緒に入ったことは一度もない。
事前に何も話してなかったこともあって、虎太くん、ちょっと引き気味。
「予約してる、香椎です」
「香椎様ですね。少々お待ち下さい」
「えっ、予約までしてんの?」
「そうだよ?してないと、時間のロスになるってちーちゃん達が言ってたから」
「……」
「希望の条件をできるだけ満たしてる物件を予め用意して貰っておくといいって」
「……へぇ」
実家暮らしの彼は、一人暮らししたことがない。
もちろん、実家暮らしの私も一人暮らしの経験はない。
自宅から通える大学だし、一人っ子というのもある。
今まで親元を離れるだなんて、考えたこともなかったから。
「お待たせ致しました。本日担当させて頂きます細井と申します。どうぞお掛け下さい」
「失礼します」
細井さんは、30代半ばといったくらいの女性。
ウェブ予約の際に、担当者の欄に『女性希望』にレ点をしておいた。
カウンターの一角に腰を下ろし、早速事前に伝えておいた条件に合う物件の詳細が書かれているファイルとタブレットが差し出された。
「2LDKをご希望ということでしたが、私の方で、1SLDK~3LDKまで幾つかご用意させて頂きました。ご覧頂いた上で、ご希望がございましたら、お部屋のご案内をさせて頂きます」
「ありがとうございます」
「……雫?」
「ん?」
「さすがに広すぎじゃね?」
「……そんなことないと思うけど」



