初出場したブリスベン オリンピックで、見事に銅メダルを獲得した虎太くん。
新聞各社やテレビ各局の取材が殺到し、結局現地でのデートは出来なかった。

当然、凱旋した彼を待つ報道陣の数は、想像していた以上に多くて。
連日、自宅を取り囲むカメラの多さに、雫は一歩も近づくことができなくなっていた。

長いはずの大学の夏休みがあっという間に明け、授業漬けの日々が始まった。


歯学部といっても、1年目は専門分野ではなく、医学部同様に一般教養の授業がメイン。
だから、必然的に他学部の生徒と同じ授業を受けることで、交流が深まると言われているのだが…。

「香椎さん、お昼一緒にどう?」
「……えっと」

園子と選択科目が違う曜日があり、どうしても雫は1人きりになることがある。
それを知ってか。
同じ講義を受ける男子学生からランチのお誘いを受けるのだ。

「ごめんなさい。友達と約束してるので」
「じゃあ、その友達も一緒でいいからさ」
「……ごめんなさい」

この手の話題には、未だに慣れない雫。
高校の時は親友2人が軽くあしらってくれたし、普段は園子が上手くかわしてくれる。

虎太郎との会話に慣れたとはいえ、彼氏とその他大勢の男子との差は歴然。

「あ、もしもし?」

じーっと見られている視線が怖くなって、思わず電話がかかって来たふりをする。
誘って来た男子たちに軽く会釈しながら、学食へと急ぐ。

「園ちゃんっ!」
「っ?!……どうしたの?」
「お昼ご飯誘われたんだけど、上手く断れなくて。後から来るかもしれないから、その時は上手く断って!お願いっ!!」
「しーちゃん、何度も言うけど。そういう時は、『彼氏がいるからごめんね』で通用するから」
「うっ、……うん」