(虎太郎視点)

3月23日から岡山県総合グラウンド体育館(ジップアリーナ 岡山)にて、全国高等学校空手道選抜大会が行われている。

大会2日目。
男子個人 組手の1回戦が10時30分にスタートした。

全国から集結した猛者たち。
小学校の頃から全国の大会で何度も対戦している相手もいる。

「虎太、冷静に空間を読め」
「はい」
「相手は猿臂(えんぴ)膝槌(しっつい)が得意だから、間合いを読まれるな」
「押忍」

猿臂とは、手技の一つで、肘打ちのこと。
膝槌とは、膝頭で脇腹や下腹部に攻撃する足技の一つ。
どちらも間合いが狭く、接近戦になった時に繰り出される技だ。

コーチの小柳が、的確なアドバイスをする。

「とにかく落ち着て行け」
「押っ忍!」

審判の合図がかかった。

8メートル四方の主戦場は、1メートル幅の赤いラインで囲まれ、4角に副審が配置。
8メートル四方のラインから1メートル内側の位置に主審が待機している。

中央には1メートル幅、長さ2メートルのラインが左右にあり、そこが開始時の立ち位置だ。

白い道着に赤い帯。
『白修館』と刺繍された道着を身に纏う虎太郎が、深く一礼してラインの内側へと足を踏み入れた。

『ー76kg』の階級の1回戦、第6試合。
相手は塩島(しおじま) 睦月(むつき)、全国中学生空手道選手権大会(全中)で一度対戦したことのある。

虎太郎より身長が10㎝ほど低いが、強い意思が感じられる鋭い眼光。
虎太郎は威圧返しをするように一秒たりとも視線を逸らさない。

帯をキュッと締め直し、気合を入れる。

主審の合図で深く一礼。

「勝負始めっ」

いざ、試合開始だ。