道場が違うし、性別も違うから。
彼と対戦することはなかった。

「新人戦の優勝のご褒美ってことなら、善処する」
「あ……、究極っすね」

水着か、組手か。
究極なんだ。

そこら辺にいる男子高生なら、絶対に前者だよ。

「優勝したら聞くから、考えといて」
「……はい」

褒美は、無いよりはあった方がいいとは思うけど。
そもそも、私の水着が褒美になるとは思えないんだけど。

香水を買いに行った時に、一応水着もちーちゃんたちに選んで貰ったけど。
体型からして、男子高生の望む水着姿とは程遠いと思う。

それでも彼が望むのならと、清水の舞台から飛び降りるくらいの勇気は振り絞って選んだよ。
まだ、買ったことは伝えてないけど。

ひゅっと風が吹き抜け、長い髪が揺れる。

「雫」

乱れた髪を手櫛で梳き、視線を持ち上げると、唇が塞がれた。

ゆっくりと啄められて、焦らされる。
すっかり甘い疼きを覚えてしまっている口元は、艶めいた吐息を漏らし始めた。

唇の隙間から滑り込んで来た舌先に絡め取られ、甘く痺れる刺激に思考がとけてゆく。

「見てっ」
「止めろ。お前、見すぎ」
「あの制服、白修館だよっ」
「いいから、黙ってろ」

うわっ、最悪だ。

外灯から少し離れていて、すっかり忘れていたというか。
場の雰囲気に呑まれたというか。

三分咲きの桜並木で、それなりに夜桜を花見してる人がいたのに…。
虎太くん、制服のままじゃん。

「ごめんっ」
「何で謝るんすか」
「だって、制服のままなのに」
「だから?」
「顔がバレるよ」
「俺は見せつけたいくらいなのに」
「っっ」
「先輩のそういうとこ、かわいっすけどね」