あの日、桜のキミに恋をした

「橘さんって今好きなやつとかいねーの?」


まずはこの質問から流れを作っていくことにした。


俺の予想だと多分、「好きな人欲しいんだよね〜」とか、「誰か紹介してほしい」というような返事がくるはずだ。


そうすればもうこっちのもんで、上手く沢村のことを推すだけだ。


しかし、この後会話は想定外の方向へ進んでいった。


「ん〜好き……というか、気づいたら目で追っちゃうような、気になってる人はいるかな……」


俺は心の中でマジか!と叫んだ。


その気になっている人が沢村という可能性は……なかなか厳しいかもしれない。


「それって学校のやつ?てかうちのクラス?」


「……うん、私たちのクラスだよ」


橘さんはキュッキュッとコップを洗う手元を見ながら答えた。


同じクラスということは、それが沢村だという可能性もゼロではない!


俺は段々興奮してきて、ついに核心に迫る質問をした。


「それって、もしかして今この場にいたりする……?」


いると言われれば沢村の勝利が決定するこの局面。


俺はすっかり洗い物の手を止めて、祈るように橘さんの方を見つめた。