あの日、桜のキミに恋をした

なんとなくだけど、今康介が楽しく文化祭を回っているとは思えなくて、私はクラスの休憩教室に向かった。


扉を開けた時のガラガラという音がやけに大きく響いた。


教室の中にいたのは康介1人だけで、彼は窓際の席に座って机に頬杖をついたまま、校庭の様子を眺めていた。


「康介!」


「……なに?」


呼びかけに返事はしてくれたが、私の方を向いてはくれなかった。


やっぱり怒っているのだろうか。


私は扉を閉めて彼の方へ近づいた。


「小林くんのこと黙っててごめん。メッセージにも書いたけど、別に隠すつもりはなくて、本当にただの同級生だから友達って言ったの……」


「……小林くん、ね」


「うん……」


謝るだけ謝ったし、私は彼からの言葉をじっと待った。


おそらく彼は、なんやかんやで「しょうがないな〜」って許してくれると思っていた。


今までがそんな感じだったから。


でも彼の答えはそんな穏やかなものではなかった。


「ごめん……ちょっと頭冷やしたいかも」


それだけ言い残して、彼は扉の方へ向かう。


再び開いた扉の向こうには小林くんが気まずそうな顔で立っていた。


「え、康介待って!」


扉の所まで言って叫んだけれど、彼は階段を降りて消えていく。


私の声は届かなかった。


これ以上拒絶されるのが怖くて、私は追いかけることができなかった。


「ごめん阿部さん……俺のせいだよね……」


申し訳なさそうにする小林くんに、私は俯きながら首を大きく横に振った。