「そういやあさ、最近出ないな、喉串刺(のどくしざ)し犯」

 会計を終えて駅までの道すがら、楊枝を咥えた和樹が言った。
 喉串刺し犯ってなんだっけと束の間考え、俺は「ああ」と思い出す。

「そういやそんな奴いたな。死体の口の中に包丁が突き刺さってる事件だろ?喉以外には外傷一切見当たらないっていう」
「そうそう。大体一年に一回か二回現れてたけど、次はいつ現れるんだろ」
「知らねー。おっかないから早く逮捕されてほしいよな。ターゲットは六人連続男性だとか言うし」

 その時ぴゅうと冷たい夜風が吹いて、和樹が震えた。

「やべえ、なんか当時のニュース思い出したら怖くなってきた」
「あははっ。犯人が通り魔じゃないかぎり大丈夫だよ俺たちは。人に恨みなんか買ってないし」
「アホか!俺も修二も過去に不倫して身勝手にフってるだろ!じゅうぶん恨み買ってるわ!」
「女に包丁で喉を刺されるってこと?そんなことあるかよ、剛腕プロレスラーと付き合ったわけでもないのに。俺だったら女なんかに刺される前に、力づくで取り押さえるけど」
「そりゃあ、そうだけど……」
「って言うかなんで包丁持ってる奴の前なんかで口をぱっくり開けるかね〜。普通口ん中目がけて刃物が向かってきたら、閉じないか?」

 数年にわたり解決していない連続殺人事件。指紋ひとつ見つからずに捜査は難航し、今に至る。
 世の人々がこの事件を忘れた頃に再び事件は起こると、いつだかニュースキャスターが言っていたなあと、俺は酒のまわった頭でぼんやりと思った。