それはある日のことだった。

環境にも徐々に慣れ始め、仕事も軌道に乗った、そんな、気持ち明るい午後のこと。

「――お前は……」

たまの休日、街の散策をしようと歩いていたら、あの時の女が、目の前に現れた。

漆黒の髪を後ろに束ね、ティーシャツにジーパンという相変わらずラフな格好をした女性。

ポケットに親指をひっかけて、タバコをくわえている。

あの時のふてぶてしい態度と、なにひとつ変わらない。

女は首だけで、あさってのほうを差す。

「ついてきなさい。アダムがお呼びよ」

「アダム――だと?」

お前は、そのアダムには反対側にいる人間ではなかったのか?

それなのになぜ、お前の口からアダムの名が出てくる?

なぜ、アダムのところへ導く?

「詳しい話は歩きながらするわ。いいからついてきなさい」

女は自分のペースだけを順守する。

答えも聞かず、てくてくと歩き出した。

「おい、待てよ!」

結局、紫苑は女のあとをついていく。