それから数日後。

優しかった太陽の光が徐々に熱を失っていき、冬の足音が聞こえ始めた。

「朝晩、冷え込むようになったよね」

机に肘をつけ、頬杖をついて春が呟いた。

「うん、そうだね。営業マンは大変な季節に突入だね」

コピーした書類をまとめていた私は、チラ、と春へ視線をやってそう答える。

「うん……」

いつもとは違う歯切れの悪い答えに、私は手を止めた。

「どうかした?」

「ねえ、最近、夏、変じゃない?」

「あ……うん」

私は春の言葉に頷いた。

そう……最近の夏はどこかおかしい。

いつものように明るく振舞っていたかと思えば、時折、遠い目をして心をどこかへ飛ばしている。

今にも消えてしまいそうな錯覚を覚えるくらいに。

その後、「なんでもねぇ~よ!」って、笑い飛ばすんだけど。どこか無理をしているようだった。

いつからだろう?

この間の……私の誕生日から?

「あののんびり屋の冬まで心配してたよ? ったく、何やってんだろうね?」

そう言って笑う春も、なんだか辛そう。

うん……分かるよ。好きな人が何か悩んでいるときに何も出来ないって、もどかしいよね。


噂をすればなんとやらで、夏が営業先から帰ってきた。

「お疲れー!」

春が立ち上がって元気な笑顔で出迎えたけど、夏は軽く手を振ってそれに応えただけで、すぐにまた外へと出て行った。

「もう……」

軽く溜息をつきながら椅子に座ろうとした春は、腰を浮かしたまま出口へと目をやった。

その視線の先を追うと、同じ部署の山崎先輩が、ふわりと髪を靡かせて外へ出て行くところだった。

それは夏を追っているようにも見える。