「……夏?」

こんな顔で見られるのは初めてで、何だか心が騒いだ。

「どうしたの? 早くみんなのところに戻ろう?」

微笑みかけて夏の前を通り過ぎようとしたら、スッと目の前に腕が伸びてきて、道を塞がれてしまった。

「……夏……?」

見上げた夏の顔は、苦しげに歪んでいて……私は眉を潜めた。

「秋」

真っ直ぐに見つめ下ろす夏の真剣な眼差しに、戸惑う私。

「秋、俺は……」

見詰め合ったまま、止まる時間。

次の言葉を待ったけれど、なかなかそれに続く言葉が紡がれなくて。

静かに流れるジャズに包まれる私たちの間には、息苦しいほど張り詰めた空気が流れていた。

やがて、夏の腕がスッと引かれて、その空気から開放される。

「ごめん、なんでもない」

くしゃっと顔を崩して笑う夏は、いつもの夏だった。

でも……

「夏?」

首を傾げて見上げる私の背に手を回した夏は、ぐい、と背中を押した。

「ホラ、主役がいつまでもこんな端っこにいない! 春も冬も待ってるぞ~」

「わ、分かったから、押さないで」

前につんのめりそうになりながらテーブルに戻ると、春が頬を膨らませていた。

「おっそい秋! も~寂しかったあ~!」

ギュッと抱きつかれて、私も春の背中に手を回す。

「秋まで春みたいに気分悪くしたのかと心配になったよ」

横から優しい言葉をかけてくれる冬に、少しだけ胸を痛めながら……微笑んだ。

「私が春みたいになるわけないじゃん。私が潰れたら誰が春の面倒見るのよー」

「そりゃそうだ」

席につきながらそう夏が言うと、ドッと笑い声が溢れた。