青空@Archive

 思わず出たのは、声にならない声。悲鳴を追い越した悲鳴。
 先のとは種類が違う、言うなれば理解の範疇外の、或いは理解したくない恐怖。
 ミラクル恐怖体験。
「いや、生きてるんかい!! ホワイッ!?」
 気付くと思わずツッコミみたいな勢いで疑問を投げつけていた。
 それもそのはず。ボクが視線を向けた先に顔はなく、声がする先には体が無かった。
 口調崩壊がどうした。これだけおかしな事が続いたなら、いくら好奇心旺盛な人間でもおかしくなるっちゅーねん!
 そこに立っていたのは十中八九間違いなく、フック船長に斬られて死んだはずのピーター・パンその人だったのだ。
 彼は、倒れる前の姿そのままに、腰くらいの低空をフワフワと浮かんでいた。
 傷一つなく、
 血痕一つ、なく
 ただニヤニヤ笑う自分の生首を、大事そうに両手で持って―――。
「どういう……」
「まあ、こういうことだ」
 ボクよりも先に口を開いたのは、完全にやる気が無くなった顔の船長だった。
 首を抱えたピーターが後を引き取る。
「本の役者達はな、自分の物語世界にある自分の私物以外の何かに触れている限り、絶対に死ぬことはないんだ。たとえ草一本でもポケットに入っている限り、死神はやって来ない。にしても……おいてめっ、フック!」
 ピーターは、自分の首を投げつけんばかりの勢いで、船長にくってかかる
「首バッサリはさすがにやりすぎだろ……って顔を逸らさないで目を見ろ、目を! 死ぬかと思ったぞ!」
「はん。死なないって今自分で言ったばかりだろう」
 お前の目なんて見る価値もないとでも言うように、船長は彼に背を向けたまま、鉤の右手を上げると鼻で笑い飛ばした。
「それより、体の一部が無いってのはさぞかし不便だろう。これで少しは初期設定(デフォルト)で片腕がない俺の気持ちを理解出来たか? ピーター坊ちゃんよ」