時計ワニはウサギ紳士の掛け声に地響きかと思う程の鬨の声を発すると、こちら目掛けて一直線に突撃して来た。
「ちっ。トカゲが……」
船長の呟きはごもっとも。一本一本が人の背丈程もある鋭い歯がズラリと並ぶあの巨大な顎に噛みつかれたら、人どころか船ですらその原型を留めないだろう。
文字通り、噛みつかれた場所は跡形も残らない。
「アリス! ちょ、あれボクらが見えてないの!? あんなに口を開けてると噛まれそうなんだけど!?」
「そもそも噛みつく気で来てるでしょ」
アリスは思いのほか冷静で、「まあそうはいっても、恐らく無駄でしょうけど」などと、意外にも溜め息などついている。
楽観……とは違うようだ。
そしていざという時の冷静さなら船長も引けを取らないようで、迫り来る巨体に対し静かに、ごくごくゆっくりと水平に構えたカットラスを肩の高さまで持ち上げた。
もう一方の手――名前通りの鉤爪の義手は、さながら照準を定めるように目先へと伸ばされ、剣の切っ先近くにそっと添えられている。
「突き……水平にしたってことは平突きの構えね。シオン、今の内に私の後ろに……、」
相変わらずアリスは冷静沈着だったが、その目には微かに緊張の色が含まれている気がした。
そしてボクの第六感は、今度なでてあげたいくらいには優秀だった。
「危ないから」
アリスが言い終わるのとほぼ同時に、時計ワニの巨大な鋭牙が船体の三時方向、右舷の真ん中へと食い込む――。
ワニの噛む力は数トンとも言われている。それがあれだけの大きさなら、軽く顎を閉じただけで木材で出来た船など、軽く木っ端微塵だろう。
が。
「あの船長……恐ろしくいい腕ね」
アリスが言い、船長が刀剣を持つ腕を真っ直ぐに突き出した。
「え……」
途端、巨大なワニの巨大な体躯は、その暴力的な勢いをピタリと止めた。
「ちっ。トカゲが……」
船長の呟きはごもっとも。一本一本が人の背丈程もある鋭い歯がズラリと並ぶあの巨大な顎に噛みつかれたら、人どころか船ですらその原型を留めないだろう。
文字通り、噛みつかれた場所は跡形も残らない。
「アリス! ちょ、あれボクらが見えてないの!? あんなに口を開けてると噛まれそうなんだけど!?」
「そもそも噛みつく気で来てるでしょ」
アリスは思いのほか冷静で、「まあそうはいっても、恐らく無駄でしょうけど」などと、意外にも溜め息などついている。
楽観……とは違うようだ。
そしていざという時の冷静さなら船長も引けを取らないようで、迫り来る巨体に対し静かに、ごくごくゆっくりと水平に構えたカットラスを肩の高さまで持ち上げた。
もう一方の手――名前通りの鉤爪の義手は、さながら照準を定めるように目先へと伸ばされ、剣の切っ先近くにそっと添えられている。
「突き……水平にしたってことは平突きの構えね。シオン、今の内に私の後ろに……、」
相変わらずアリスは冷静沈着だったが、その目には微かに緊張の色が含まれている気がした。
そしてボクの第六感は、今度なでてあげたいくらいには優秀だった。
「危ないから」
アリスが言い終わるのとほぼ同時に、時計ワニの巨大な鋭牙が船体の三時方向、右舷の真ん中へと食い込む――。
ワニの噛む力は数トンとも言われている。それがあれだけの大きさなら、軽く顎を閉じただけで木材で出来た船など、軽く木っ端微塵だろう。
が。
「あの船長……恐ろしくいい腕ね」
アリスが言い、船長が刀剣を持つ腕を真っ直ぐに突き出した。
「え……」
途端、巨大なワニの巨大な体躯は、その暴力的な勢いをピタリと止めた。


