日に焼けた精悍な顔つき。
抜き身の刀を思わせる鋭い眼光。
無駄なく引き締まった体躯。
肉体という器から溢れ出る覇気。
そして――黒。
髪の毛からつま先まで、ジャケットからブーツまで、生来のパーツもそうでないものも、ものの見事に黒一色。黒単色。違うのは、腕捲りをしたジャケットから覗く、鈍色に光る鉤型の右腕だけ。
おじさん、もしくは初老のおじいさんだと思っていた船長は、はつらつとしたオーラを持った年若い青年だった。
しかし母さんの葬式でも、こんなに喪に服した色の人間は見たことがない。
あるいは、他人の死を日常として受け入れているのだろうか。
そんな柄にもない事をボクが無意識に考えてしまったのは、彼の足下に、先に甲板に上った“永遠の少年”の、打ち捨てられた体が転がっていたから。
“体”。
人体を頭と胴体の二種類に分けるのならば、確かにそこにあったのは間違いなく体だった。
無論、体があるなら頭もある。しかしその場所はあるべき首の上ではなく、船長の腕の中だった。
無残に首を刎ねられたピーター・パンは、ただただ静かに、虚ろな眼差しで虚空を見つめるだけだ。
フリーズしていた思考は再び動き出す。
「うぁ……あ……」
ボクは再び襲ってきた吐き気を両手で必死で堪えながら、先程まで笑って喋っていたピーターを亡き者にした張本人であろう男に、形ばかりの敵意を向けた。
同時にしたのは、何かが風を切る音と炸裂音。「シオン!」
船長が僅かに驚いた表情を見せたが、爽やかそうな仮面の下の、不気味に八重歯が覗く口元は隠してはいない。
後ろから放たれたアリスの弾丸によって、ボクの顔面目掛けて投げられたナイフが撃ち落とされたのだと理解する頃には、僕は膝からタールの染み付いた甲板に崩れ落ちていた。
息が出来ない。
肺が酸素を求めるが、口を開いても何も入ってこない。
――呼吸ってどうやるんだっけ?
「ぁは……はっ……!」
足下に突き刺さった小振りのナイフが、僕に現実を囁く。
人は簡単に、死ぬ。
抜き身の刀を思わせる鋭い眼光。
無駄なく引き締まった体躯。
肉体という器から溢れ出る覇気。
そして――黒。
髪の毛からつま先まで、ジャケットからブーツまで、生来のパーツもそうでないものも、ものの見事に黒一色。黒単色。違うのは、腕捲りをしたジャケットから覗く、鈍色に光る鉤型の右腕だけ。
おじさん、もしくは初老のおじいさんだと思っていた船長は、はつらつとしたオーラを持った年若い青年だった。
しかし母さんの葬式でも、こんなに喪に服した色の人間は見たことがない。
あるいは、他人の死を日常として受け入れているのだろうか。
そんな柄にもない事をボクが無意識に考えてしまったのは、彼の足下に、先に甲板に上った“永遠の少年”の、打ち捨てられた体が転がっていたから。
“体”。
人体を頭と胴体の二種類に分けるのならば、確かにそこにあったのは間違いなく体だった。
無論、体があるなら頭もある。しかしその場所はあるべき首の上ではなく、船長の腕の中だった。
無残に首を刎ねられたピーター・パンは、ただただ静かに、虚ろな眼差しで虚空を見つめるだけだ。
フリーズしていた思考は再び動き出す。
「うぁ……あ……」
ボクは再び襲ってきた吐き気を両手で必死で堪えながら、先程まで笑って喋っていたピーターを亡き者にした張本人であろう男に、形ばかりの敵意を向けた。
同時にしたのは、何かが風を切る音と炸裂音。「シオン!」
船長が僅かに驚いた表情を見せたが、爽やかそうな仮面の下の、不気味に八重歯が覗く口元は隠してはいない。
後ろから放たれたアリスの弾丸によって、ボクの顔面目掛けて投げられたナイフが撃ち落とされたのだと理解する頃には、僕は膝からタールの染み付いた甲板に崩れ落ちていた。
息が出来ない。
肺が酸素を求めるが、口を開いても何も入ってこない。
――呼吸ってどうやるんだっけ?
「ぁは……はっ……!」
足下に突き刺さった小振りのナイフが、僕に現実を囁く。
人は簡単に、死ぬ。


