青空@Archive

 戦争、紛争、血で血を洗う争い……そんなものは他人事だと割り切って、やれ難民だ、やれ基金だ募金だといった事には目を背けた人生を送ってきたボク。
 そんな平和ボケしたボクですら感じる、この霧のように肌にべったりと纏わりついて離れようとしない視線に、なぜアリスは気付いていないのだろうか?
 差し詰め、猛禽に狙われた小鳥の気分といったところだ。
 萎縮して手足が動かない。動けない。目蓋が閉じれない。開けれない。息が出来ない。出来ない。出来ない。
 出来ないよ。
「シオン?」
 名前を呼ばれハッと我に帰ると、アリスが訝しむような眼差しでこちらを覗き込んでいた。
 ボクの二つの肺が酸素を貪る。
「っは! はーっはーっ! ああ……。アリス……」
「『ああ』じゃないわ。どうしたのよ、突然ぼーっとして。と思ったらいきなり深呼吸? それに、暑くもないのに汗びっしょりじゃない」
「汗……?」
 よく使われるようなベターな言い回しだったが、言われてみればぼーっとしていたらしいボクは、服が肌に張り付く程汗だくで呼吸も荒い。
 キツく握り締めていた両手は、血の気が失せて真っ白だった。
「気持ちが不安定だっていうのは分からないでもないけど、今は――、」
「だいじょう……ぶ、大丈夫。ちょっと気持ちが疲れただけだから」
 嘘じゃない。
 虚言じゃない。
「そう?」
 そう言ってアリスも梯子に手をかける。
 その背中に不吉なものを感じた事は、結局言えず終いだった。