それなのに、
「なんであんたはボクの心の逃げ道を仁王立ちて塞ごうとするんだっ!!」
 心を割ったボクに、もっと昔の自分――純粋な女の子――になれなんて。
 しかし、アリスはボクの話を全て聞いて尚、傲岸に笑ってみせた。
「何言ってるの。男言葉を使っているのに格好は女の子から変える気はない? ……そんなの、男性の持つ強さも女性の持つ強さもどっちもシオン――あなたが既に持ってるからに決まってるじゃない」
 アリスは、女であっても数秒でたらし込めそうな会心の笑みで、そう断言する。
 呆気にとられたのはボクだ。母さんが死んでから今までずっとずーっと悩んできた事がバカみたいに、綺麗に一蹴されたのだから。
「それにね、勘違いしてるようだから言っておくけど、私達は、プカプカ浮いてるしか能がないようなピーターを始めとする殆どの男より、もっともっと心は強いイキモノなのよ?」
 そう言って、嫌な顔で浮かぶピーターを一見すると、続いて背中をもたれていた海賊船の船底を、拳の裏でコツコツ叩き始めた。
「逃げ道探す暇があったらね……歩きまくって自分の目で見た先の未来に、大きな穴でも空けてみせなさい!」
 言うなり、アリスの拳が火を噴いた。
 さすがに比喩の表現だが、実際に火でもつきそうな爆発的な威力の拳一つで、木製の分厚い板張りの船底に、楽々どでかい風穴を空けたのだ。
(未来に――)
 空いた穴には硝煙や火薬の匂いを含んだ風が吹き込み、カビ臭さが残る船内の空気を運び去っていく。
「こんな風にね」
 人が楽に通れるサイズの穴の先に入り、アリスはずんずん先に行ってしまう。
 続いて船底の穴に入ったピーターが、まだ立ち止まっているボクを振り向くと、先程とは違って確固たる意志を持って、右手を差し出してきた。
「シオン」
 風の吹き抜ける道の先には、一体何が待つのだろう。
「分かった。行くよ」
 ボクは差し出したピーターの手を、しっかり握り返す。
「でも、まだ口調は戻してやんねーから」
「シオンッ!」
 地獄耳の彼女は、楽しそうに怒ったのだった。