「出来るだけ頭下げて! もっと左! ……ああ逆、あなたから見て右よ! そう、そのまま口を大きく開けていて!」
 大声で叫ぶアリスの指示は、簡潔なものだった。要は限界まで屈んで口を開けろ、だ。
 少しだが、紫苑の頭が降下してくると、何やら細かい作業をしていたアリスが慣れた手際で弾を装填し、銃口をを上へと構え、仰向けに近い体制からスコープを覗き込み、焦点を合わせる。
「あー、なるほど」
 直後に響いた轟音と立ち上る白煙、それに火薬の臭い。
 全ての残響が消える頃、巨人少女は見る見るうちに1/1スケール紫苑に戻っていった。
「流石は名狙撃手殿」
「煽てたって何も出ないわよ、アイ。この私の世界じゃ、キノコを銃弾に変えて撃ち出すくらい何でもないんだから」
 アリスはまんざらでも無さそうにキノコ弾を指で弄びながら、屈託のない笑顔で長いブロンドの髪を掻き上げた。


「このバカ! お腹空いてたんだから、食べるとデカくなるなんて大事な事は先に言っとけ!」
 元に戻るなり、紫苑は半泣きでポカポカと殴りかかってきた。
 元に戻った途端、恐怖感が襲ってきたようだ。
 紫苑の泣きっ面を見て藍は、こいつはまだ少女なんだと改めて実感する。
 天瑠璃の性であるところの好奇心の塊のような性格は臆面もなく表に出す癖に、内に秘めた本心なんかは口に出さないで、限界まで一人抱え込む。藍には紫苑という人間がそう見えた。
(信頼して守護者には話して欲しいものだが……流石にまだ無理か。しかし今はそれよりも――)
「バカはお前だろ! いきなり躊躇なくあんなキノコにかぶりつく奴があるか! 毒だったらどうするんだ。いきなり見知らぬ場所の見知らぬ物を喰うな!」
「そこはほら……好奇心?」
「いらん! そんなもの、掃いて捨てて燃えるゴミの日にでも出してしまえ!」
「ひど! 人間、好奇心を失ったら廃人同然だってーの」
 そんな口論をしながらも、元のサイズに戻れたことを安堵し、互いに喜んでいるのが藍には手に取るように分かってしまうのだから、果たして藍が聡いのか、紫苑という少女が分かりやすいのか……。