それ程までにアリス=リデルの身体能力・戦闘能力は高い。
 近接戦闘ならどこぞやの赤鬼と、得意の狙撃ならあのトム=ソーヤと同程度以上だというのだから、まさに物語が産んだ怪物だ。
 そしてこの怪物は、自分が認めた強い者には一切手加減しない。
 そんなものを生み出していたなんて、書いた作者も予想していなかったに違いない。……正確には生み出した訳ではないのだから、この表現は正鵠を射ているとは言えないのだが。
 アリスは涙のスコールを器用に避けながら紫苑に向き直ると、両手を腰に、堂々言い放った。

「聞きなさい、シオン!」

 よく透る澄み渡った声に、ピタリと涙の雨が止む。
「私の言うとおりにして。ね?」
 うって変わって優しげなアリスの声音が聞いたからか、ニッコリ微笑む顔が見えたからかは定かではないが、紫苑がゆっくりと頷き「わーーかーーっーー……」と聞こえてきた。
 そしてなぜか肩に背負っていたシモノフを下ろし、矯めつ眇めつ丹念にチェックする女性がここに。
「アイ」
「なんだよ?」
 まだ転がった体制から立ち上がれず(むしろ反抗に見えたが)にいる藍に、アリスは火器から目を離さずに言った。
「あの子、バカだけど芯は素直でいい娘じゃない」
 らしいぜ、源次郎さん。